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下請から脱却できない残念な中小企業にありがちな8つの特徴と解決策

公開日: : 最終更新日:2014/01/03 おすすめ本 , ,

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photo credit: MTAPhotos via photopin cc

日本の労働人口は約6300万人で、企業で働いているのが約4300万人。このうち中小企業で働く人口の割合は約66%(2800万人)だそうです。日本の雇用は、中小企業約420万社が支えているといっても過言ではありません。金融危機が起きても、ヨーロッパ諸国のように経済破綻が起きないのは、多くの中小企業のおかげかもしれません。

そんな中小企業も、大手企業からの発注減や海外勢の国内進出により、厳しい経営状態が続いていると思われます。そのため、なにかしらの力になれればと想い、日々情報発信を続けています。

そこで下請から脱却できない中小企業にありがちな7つの特徴と解決策について、ぼくの弁理士としての経験と、幼いころから見てきた両親の金属加工会社の様子(典型的な下請業)をふまえてまとめました。なお各所で「技術は中小製造業の飯の種(著・鎌倉國年)」を引用しています。

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1.技術を深掘りしていない

技術の深掘りというと、特化した分野について研究開発を繰り返し、技術に磨きをかけることだと思われがちです。しかし穴を深く掘れば掘るほど、穴の直径は大きくなるものです。つまり深掘りするためには、特化した技術の周辺知識を増やす必要があります。

「要因が増えると、専門外のこともほったらかしにはできなくなる。やむなく、調べたり聞いたりすることも増えていく。そして、あれもこれもと手を出して、しまいには収拾がつかなくなることも多い。・・・。

しかし、こうした過程の一見無駄に見える作業が、実は後になると極めて重要な働きをしてくるものである。中心だけを掘って行けばすぐに済みそうだが、周辺を厭き(あき)もせず掘ることで得られる雑多な知識を経験は、本や映像の万人向けの情報とは違って、世界中でたった一つの、自社だけの、自分だけのものであるから、やがて大きな価値がでるのである。(p31~33)」

ムダと思うことがあれば、例えウンチクでも理由をつくって本業と関連付ければいいのではないかと想います。ムダかそうじゃないかは、後々になってみないとわからないからです。しかしそのムダが、いずれ真価を発揮するときがくるのではないでしょうか。

2.定性的なデータを管理していない

より早く利益を出すには、売れない理由を探すのではなく、売れた理由を探し、分析し、汎用化することです。

「そして、業績を向上させる最も重要かつ有効なものは「データベース」である。量的には豊富なデータ。管理的にはそれらが一定の価値判断を下に系統的に整理されていること。機能面では、それらが外部のデータとなり、人脈とつながっていることが求められる。(p53)

会社の状態を数字で理解するだけでなく、その数字がどのような要因ではじきだされたかを分析するのも経営者の仕事のはずです。売れた理由を単にお客さんの気まぐれによるものとせず、なぜお客さんが買ったのか?なぜお客さんがまた注文してきたのか?などを定性的なデータを管理することが必要と考えます。ひょっとしたら技術の良し悪しだけではなく、担当者の対応がよかったからかもしれません。そうであれば、その担当者の対応を分析してデータ化し、他の従業員にも汎用的に使えるようにするのはいかがでしょうか。

3.目先の利益に追われてしまう

会社を存続させるためには黒字化しなければならないため、目先の利益に追われる気持ちもわかります。しかしそれではいつまでたっても下請のままです。悪循環を断ち切るには、教養も必要です。

私はこう思う。「いろいろなことに着目して、歴史をベースにした多くの事例に明るくなければ発想は出てこない」。奇妙に聞こえるだろうが、中小企業こそリベラルアーツ(教養)が必要である。広くて深い教養がなければ、何をどう分析して選択すれば良いのかわからないだろう。教養は歴史にとどめを刺す。歴史書は弱者の戦略の宝庫であるから、弱者がどう生きていくのかを知りたければ、歴史に学ぶべきである。」(p53)

世の中は過去の積み重ね世紀の大発明は過去の小発明の積み重ねに過ぎません。目先の利益のためにかたっぱしから営業コストをかける前に、まずは業界の動向、勝者と敗者の特徴、自社の歴史などを学ぶことで、突破口が見えてくると想います。

4.意思決定が遅い

多くの中小企業は、できない理由から考えてしまいがちです。特に経営者が団塊の世代になると、過去の武勇伝にとらわれ、新しいことにチャレンジする柔軟な思考に欠ける点は否めません。

「安上がりということは身が軽いということで、素早く変身できること、方針転換に時間がかからないことでもある。環境の変化がこれだけ急激になってくると、変化することも一種の技術である。一種どころか、極めて重要な技術である。・・・。

大手が方向転換するには三年、五年かかるが、中小なら三か月、五か月で済む。ここが大切だ。逆に言えば、意思決定が遅く、しかも実行力がない中小企業は、それだけで存在価値がない。」(p54~56)

意思決定を早めるには、できる理由を考えることです。できない理由をいくら探しても、発展性がありません。できる理由もできない理由も、結局はヒト・モノ・カネでしょう。ヒトはいるけど教育するカネがないなら、従業員に自主的に学ばせるうま味を伝える、または期間限定で専門家に支援を依頼するなど、考えれば手段はいくらでもあるはずです。

5.職人が牛耳っている

自分の腕に自信がある人ほど、職人気質だと思います。以前、「頭でっかちな職人に必要な5つの思考」にも書きましたが、匠の技がなければ仕事ができないというレッテルをはるのは、今の時代にはナンセンスだと想います。

「日本の弓道は一矢入魂であるが、外国では連射式が発達した。連弩(れんど)という発想は、後に機関銃につながった。このような「素人ができる」という要素は重要である。長い訓練を積んではじめて使い物になるのと、精度は多少劣ってもすぐに実戦に投入できる方法と、どちらが優れているかは言うまでもない。我が国の技術的な隘路(あいろ)は、「何々道」と名づけて技術的な訓練を人格形成に結びつけることである。技が未熟であれば人格も同様に未熟とされ、超絶の技を身につけた人は偉大な人格者となる。しかし実際には、技能と人格の間には、世間で言うほどの関連性はない。」(p77) ※連弩(れんど):一度に多くの矢を発射する手法、隘路(あいろ):物事を進める上で妨げとなること

その技術を後世に伝えていくのも職人の任務ではないでしょうか。技は盗むもの、という考え方は嫌いではないし、手とり足とり教えるのはかえって良くありません。しかしベース(本質)すら体系的に整理できないような技はもはやビジネスにはならないという割り切りもこれからは必要だと想います。

6.技術の保護意識が甘い

親しき仲にも礼儀ありというコトバは、ビジネスにも適用できます。仕事をもらっているから関係を悪化させたくないのはよくわかります。しかし独自に生み出した技術を易々と見せることが良好な関係を保つことではありません。

「また日本では、大企業が中小企業の技術をパクるのは、日常茶飯事である。・・・。盗みの手口はこうである。新しい製品を持ち込むと「製造工程の証明」「材料データ」「品質管理基準」「金型」などさまざまな資料を出せという。出すとそれきりになってしまい、しばらくすると同じものを大手が販売するのである。7(p82~83)

そもそも日本は海外の技術をパクッて成長した国です。その研究熱心な気質そのものは素晴らしいと思います。しかし大企業は大企業で生存競争の真っ只中におり、利益をあげるのに必死です。パクるほうが悪いのではなく、パクられる方が悪いという意識を、今後はますます持つべきです。

参照:スタートアップでのオープン・クローズ戦略の選択 特許の有効活用を考える

7.ハウツーがウリ

スマイルカーブというコトバをご存知でしょうか。スマイルカーブと逆スマイルカーブという記事がわかりやすいので図を引用します。つまりの日本はかつて逆スマイルカーブ(組立・製造)で発展してきましたが、アジア諸国で製造コストが安価になったため通用しなくなってきました。

©Tech-On

「中小の製造業ではよく「我が社は言ってくれれば、どんなものでもつくってみせる」というが、本当のポイントは「ハウツー」ではなく、何をつくるかという「ホワット」なのである。どういう風につくるのかを問えば、一時間でも二時間でも熱弁を振るう工場の人に、「結局、何をつくりたいのか?」と聞けば絶句する。今後はハウツーの価値は低下する一方だが、ホワットの価値は希少性があって上昇する。(p115)」

今では3Dプリンターのおかげで試作品が簡単につくれるようになりました。たとえばThingiverseでは、3DCGデータを無料配布しており、欲しいデータがあればダウンロードできます。昔より「ホワット」を生み出すハードルは下がったのではないでしょうか。ハウツーの技術を活かして突破口を見い出してほしいと想います。

.モノやサービス自体にこだわり過ぎる

会社を発展させるには、モノやサービスの品質向上しかない。だから人材や設備に投資する。当然、資金が潤沢ならば問題ありません。しかしモノやサービスの良し悪しはお客さんが決めることです。つまりお客さんに求められて品質向上をはかるならまだしも、そうでないのに先走って投資するのは危険です。その点、木の葉ビジネスで成功した株式会社いろどろのアイデアは、ずばり顧客目線を見極めたものといえそうです。

「まっとうではあるが、売り物はただの葉っぱに過ぎない。山に生えているから木から葉っぱをとってきて、洗浄し形や大きさをそろえてパックして全国に発送している。何に使うかというと、料理を飾る「つまもの」として需要があるのだという。過疎化と高齢化が進む徳島県の上勝町で産まれたビジネスで、いろいろな試行錯誤を経て、今では年商二億六〇〇〇万円にまで育っている。人口わずか二〇〇〇人の町にすれば、その辺の木々はまさに金のなる木になったわけだ。葉っぱが本当にお金に化けたのである。(p137~138)

これは、高級料亭が食材や料理人の腕だけに注力せず、お客さんが料理を目の前にしたときに感じる世界観(アート)を“つまもの”で表現するニーズがあることを発見し、よりよい葉っぱを高級料亭に届けるという課題をクリアしたビジネスといえます。細かい点で試行錯誤はあったものの、ビジネス自体はすごくシンプル。独りよがりなこだわりはありませんし、地域経済に貢献できている点も、中小企業のモデルになると想います。

≪ピッタリナまとめ≫

厳しいかもしれませんが、専門性がない中小企業は存在価値すらなくなってきました。専門性とは、「〇〇のことならあそこ」とすぐに想い出してもらえるくらいの“強み”のことです。発注する側(大手企業)も、内製化やコスト削減により、中小企業を切り捨てるようになってきました。しかし中小企業が下請から抜けられない最大に理由は、下請という意識が根強いからだと個人的には考えています。新しいモノを発明して自社製品を持つことだけが下請脱却ではないはずです。手持ちの資源を有効活用し、お客さんが会社のファンになってくる活動をはじめられるのをオススメします。

地方で生きる 地方を活かす 技術は中小製造業の飯の種

2013年9月29日

著者 ゆうすけ ⇒ プロフィール・ミッション・ビジョン

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