著書「ハゲタカ外伝 スパイラル」から考える特許の無償開放(オープン戦略)の意義
以前、「ハゲタカ外伝 スパイラル」の著書・真山氏のコメントに基づいてエントリーしましたが、今回は「スパイラル」で登場する“特許の無償開放”について簡単にご紹介します(ネタバレにはならないと思いますが、気になる方は読むのをご遠慮ください)。
photo credit: A possible game changer for invalidating bad software patents via photopin (license)
特許の無償開放は産業構造を変える一手か?
「アメリカで始まった著作権に関する考え方なんですが、権利をうるさく主張せず、一定の条件を守るなら自分の作品や技術を自由に使っていいよっていうルールなんです。こういう知的財産に関するオープンな考え方は、特許などにも広がりつつあります。」
<引用:「ハゲタカ外伝 スパイラル」>
特許を持っている会社が特許を無償開放する方法は二つあります。一つは、特許を自らの意思で捨てる(特許権を放棄する)こと。もう一つは、特許で攻撃しません(特許権を行使しない)という意思表示をすることです。
前者と後者で共通する最大のメリットとしては、誰でもその技術を使えるようになるため産業の発達に貢献できる点です。さらに、市場でその技術が普及することで、製品の売れ行きを伸ばせる可能性を秘めています。ライバル同士の飲食店が近くに集まることで全体の売上をアップさせる理屈と同じです。
さらに、前者のメリットとしては、特許の維持コストが必要なくなる点があります。使ってないとしても、たくさんの特許を維持しているだけで、年間数百、数千、数億のコストがかかります。維持コストを節約して売上がアップすれば利益もアップするため、一石二鳥です。
一方、後者のメリットとしては、特許の価値を落とさないようコントロールすることができる点です。一般的には、無償提供の条件があって、それをクリアしないとその特許の技術を使えないわけです。つまり、事実上は特許の力を活用して他社を利用し、市場を形成するのが狙いと考えられます。
上述した「スパイラル」の引用部分では、後者(特許権を行使しない)について語られていることになります(前者(特許権を放棄する)で「一定の条件」を付けたとしても拘束力がないため意味がありません)。このような特許の無償開放(オープン戦略)の風潮が増えたらいいのでは?というのが真山氏の考えなのかもしれません。
ちなみにぼくの個人的な考えですが、大企業で行われている特許の交換(クロスライセンス)という概念が、もっと小さい会社同士でも行われたらオモシロいんじゃないでしょうか。特許のマッチングは今でも行われていますが、その特許を使いたい相手を探すのがとても大変なので、は成功事例はそんなに多くないはずです。
その点、ipnexusはスタートアップ等のIP活動を支援するプラットフォームで、多数の特許が登録されています。特許が成立している安全なアイデアを活用したい、何かの特許を互いにブラッシュアップする、そんな動きが盛んになれば、イノベーションが加速するかもしれません。
≪まとめ≫
“特許の無償開放”、これが「スパイラル」の中でどういう影響を与えるか?それは実際に読んで知ってほしいですね。その他にも、芝野と鷲津の関係、日本の町工場のシーン、金融機関やファンドの考え方など、リアルで楽しめると思います。
2015年9月7日
著者 ゆうすけ
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