弁理士と会社の監査役についての考察
会社の監査役といえば、弁護士や公認会計士がなるパターンが多いようです。業務監査や会計監査を行うには、幅広い法律知識や財務諸表の判読能力が役立つからでしょう。
しかし会社経営は、法律だけ知っていればいい、会計の知識さえあれば足りる、というわけにはいきません。どこの会社も継続経営に必死です。時には経営に積極的に貢献することも必要ではないでしょうか。
その点、弁理士の強みは、知的財産に関して見極めができる点です。つまり会社のアイデア(技術、デザイン、ネーミングなど)をどう保護するか?またはどう活用するか?について語れるのは、弁理士だけです。
知的財産権がますます大切になってくる時代背景をうけ、弁理士と会社の監査役について考えてみました。
・監査役のミッション
弁護士でも公認会計士でも弁理士でも、誰がやるにも監査役のミッションは共通です。監査役のミッションとは何かについて、元伊藤忠商事常勤監査役・別府正之助氏は以下のように説いています。
「経営の監視とは、とりもなおさず代表取締役社長または代表取締役会長の経営ぶりや言動をチェックすることにつながる。社長または会長は、CEOとして絶大な権限と重大な責任をもって経営全般を指揮している。その仕事ぶりを冷静に監視し、問題があれば指摘して改めてもらうのが監査役の任務である。・・・
収益拡大策、新商品開発、設備投資、企業買収、不採算事業からの撤退等の重要な課題を、経営陣とまったく同じ立場で同じ視点で論ずるのでは監査役としての存在意義が薄れてしまう。」(p17-18)
監査役としての存在意義を発揮するという点で考えれば、収益拡大策や新商品開発に関する弁理士の発言は価値があるでしょう。なぜなら収益拡大や新商品開発には、自社の知的財産権を守ること、他社の知的財産権を侵害しないこと、が条件に入るからです。
また社長が監査役に期待していることを、別府氏は以下のように分類しています。
①…特に経営上の貢献を期待しているわけではない。
②…監査役はとても自分にものを言えないのではないか。
③部下の1人として、取締役と同じようにサポートしてもらいたい。…自分の目が届かないところや気付かない点を調べて報告してもらいたい。
④…副社長以下の仕事ぶりに問題があれば言ってきてほしい。
⑤…自分をしっかり監視して気付いた点は遠慮せずに言ってもらいたい。…
⑥「監査役会の基本任務はCEOの監査・牽制である」ことを、社内・社外にはっきりと周知しておくべきだ。 (p24)
積極的に意見を求める社長にとって、知的財産権に関する情報は専門家がいないとなかなか入ってこないのではないでしょうか。また入ってきたとしても、正確に伝わっていない可能性があります。
・監査役の仕事
しかしたとえ弁理士が知的財産権のプロだとしても、監査役の仕事ができなければ話になりません。監査役の仕事のメインは以下の4つ。なお監査役の仕事の詳細は「監査役監査基準」で確認できます。
①事業報告及びその付属明細書が法令又は定款に従い会社の状況を正しく示しているかどうかについての意見
②取締役の職務の執行に関する不正の行為又は法令もしくは定款に違反する重大な事実があるかどうかについての意見
③大会社の場合には、内部統制システムに関する取締役会決議の内容が相当であるかどうか、また、それに関する取締役の職務の執行についての意見
④計算関係書類が会社の財産及び損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見 (p38)
法律の理解能力やライティング能力を考えても、弁理士は十分な素養を持っているはずです。
またコーポレートガバナンスを強化するために社外の専門家を巻き込むことは、対外的なアピール(透明性)につながります。その点、社外監査役には会計監査と業務監査の権限が付与されるため、使い方次第では協力なサポーターになるのではないでしょうか。なお監査役会を設置する会社には2人以上の社外監査役が必要です。
監査役と同様に、社外監査役も会計監査と業務監査の執行権限を持ちます。全く利害関係のない第三者が会計監査と業務監査を執行することになるので、社外監査役を任命した企業は経営の透明性を社外にアピールできるようになります。(引用:2013/04/12 ITpro 「社外監査役とは」)
≪まとめ≫
会社の規模が大きくなればなるほど知的財産権の問題が顕在化していきます。人が多ければアイデアもたくさん出るし、売れてる会社の商品やサービスは真似されやすいからです。社外監査役というポジションで弁理士を入れることは会社のアピールにもなるはずです。
2013年10月15日
著者 ゆうすけ
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