キーワード「グルメ」の役立つネーミング戦略 3つのポイント
島根県邑南町の一般社団法人邑南町観光協会が申請した商標「A級グルメのまち」が登録されたというニュースが流れました(2013年3月22日登録、第5567595号)。食と農を生かした地域おこし事業「A級グルメ構想」のブランドイメージを守るために、その象徴であるネーミングを商標登録する戦略が一先ずうまくいったようです。
そこで「グルメ」というキーワードを活かしたネーミング戦略の研究結果を3つまとめました。
1.「グルメ」の時代背景
「グルメ」はフランス語「gourmet」が由来です。語源上は召使い、酒屋の下男、ボーイなどの意味があったようですが、今では食通、美食家、酒ききなどの意味で使われるのが一般的です。私たちも食通の人に対して「グルメだね~」とか、おいしい食べ物をもとめて旅する「グルメツアー」とか、日ごろから無意識につかっています。
そのようなつかい方をしていたため、私たちはいつしか食べ物に対して評価をつけるようになりました。つまり食べ比べです。よりおいしく、より安く、より珍しい食べ物に人々は興味をそそられるようになりました。
そこで食べ物の評価をあらわす指標の一つとして、「〇級グルメ」という表現がされはじめました(「〇ッ星レストラン」などもあります。)。では「〇級グルメ」のうち、「A級グルメ」「B級グルメ」「C級グルメ」というコトバは、いつから一般的につかわれるようになったのでしょうか?
「A級グルメ」とは、「B級グルメ」と対照的につかわれているコトバで、宮廷料理や高級料理、または比較的高級と評価される食材をつかった飲食物として知られています。
これは株式会社自遊人代表の岩佐十良氏が2010年に明文化したネーミングです。グルメサイト「雪国A級グルメ」では、A級グルメの要件を「食材の産地を公表できること」、「安全性に配慮した食材を、雪国伝統の調理方法で提供すること」と定義しています。※「A級グルメ」は、雑誌などの商品について2011年に商標登録されています(第5414202号)
「B級グルメ」とは、地方の名物料理や郷土食で全国的に人気になったいわゆるご当地グルメを意味し、たとえば富士宮やきそば、横手やきそばがあります。またフランチャイズチェーン店や大衆食堂などで出される比較的安価で普段の生活で食べられる庶民的な飲食物もB級グルメに含まれます。
これはライターの田沢竜次氏が明文化したネーミンで、1985年に『東京グルメ通信 B級グルメの逆襲』(主婦と生活社)が刊行されたのをきっかけに、「B級グルメ」というコトバと概念が広がりました。
「C級グルメ」とは、「B級グルメ」を基準にしてさらに安価な飲食物とイメージされているものの、一部では格安(Cheap)、ごちそう(Cuisine)、くつろぎ(Comfort)のいわゆる「3C」を備えた飲食店や、さらに中華(China)を加えたいわゆる「4C」の店と定義付けされています。
このようにもともとはフランス語の「グルメ」も時代と共につかわれ方が変わってきました。
2.「グルメ」を含む商標登録の実態
上述したように「A級グルメ」というネーミングは商標登録されています。また島根県の邑南町観光協会の「A級グルメのまち」というネーミングも商標登録されました。つまり「グルメ」というキーワードは食べ物に関連するビジネスにとって重要なキーワードと認識さていることがわかります。
そこで雑誌やIT関連の商品やサービス(いわゆる情報発信ビジネス)について「グルメ(ぐるめ)」というキーワードをつかった商標登録の件数を調べたところ、全部で107件あります。※4月25日現在
たとえば角川マガジンズが運営する「グルメウォーカー」(登録第4863455号)は、関東に限らず横浜グルメウォーカーや関西グルメウォーカーなどエリアを絞った飲食店情報をわかりやすいネーミングで発信しています。
また「ぐるなび」(登録第4021751号)は「グルメ」と「ナビゲーター」とを組み合せた「gourmet navigator(グルメ ナビゲーター)」の略語としてヒットしました。このような省略系ネーミングは愛着がわき記憶されやすいので有効です。
ソフトバンクの「モバイルグルメ」(登録第5161180号)は、モバイル用のグルメサイトとして認知されています(2008年9月末時点で全国28,000店舗が登録)。このネーミングは2008年8月に商標登録されています。スマートフォンやタブレットのユーザーが爆発的に増えたため、ますますモバイルからのアクセスが増えるのではないでしょうか。2008年にこのネーミングを確保したのは先見の明ありです。
3.キーワード「グルメ」の価値観の変化
「B級グルメ」というコトバが火付け役となり2006年から開催されている「B-1グランプリ」は、町おこし活動のイベントとして一大ブームを巻き起こしました。この傾向は今後も続くと予想できます。つまり私たちは日本各地に対して食へのこだわりをより求めるようになりそうです。その理由は3つ考えられます。
(1)地方の食品が簡単かつ安く手に入るようになった
インターネット環境が充実してきたため、企業が広告費や人件費をおさえられる分、地方の食品も安く提供されるようになりました。
その背景をうけて、北のグルメが運営するインターネット通販サイト「北のグルメ便」(2012年7月27日登録・第5509577号)では、北海道の魚介類,野菜,果物の画像だけでなく、生産現場の様子や食材への豆知識などたくさん発信しています。まさに「北海の大地が贈るグルメレター」といった感じです。
(2)食に対する安全思考が高まってきている
2011年の東日本大震災の影響で起こってしまった福島原発の問題に対して、自遊人が運営する食品情報発信サイト「雪国A級グルメ」(2011年5月20日登録・登録第5413403号)では、上述したA級グルメの要件を定義した理由を以下のように述べています。
福島原発の事故以降、「地産地消=安全安心」という食の価値は大きく崩れています。この状況を乗り越え、地域の農業と経済を活性化していくためには、従来の食の安全性を追求するのはもちろんですが、原産地を含めた食品の情報公開を徹底的に進めることではないかと私たちは考えています。
これに加え、諸外国から輸入された飲食物に異物が入っていた事件など、食品提供者から情報開示を求める傾向が強まってきています。少子高齢化や飲食物の欧米化などが理由で、健康ブームもその影響と考えられます。
(3)メニューだけではなく人や物語に価値を求める
「B-1グランプリ」ではそもそもプロの業者の参加は禁止されています。つまり単にメニューがおいしかったり安かったりするだけではなく、結局はその地域の人々がどれだけ町おこしに取り組んだかによってお客様の評価が変わってくるはずです。
ぐるなびが運営する「まちぐるみ まちぐるめ(2012年5月11日登録・登録第5491857号 )でも、各地で行われている食と歴史が体感できるツアーや地方の飲食店経営者へのインタビューなどを特集し、人情や想いを通してグルメ情報を発信しています。
まとめ
「グルメ」というキーワードは「贅沢な食通」から「感動する食人(しょくびと)」という意味に変わってきました。つまり単なる美味しいものから人情味あふれる食品こそ「グルメ」が求めているものです。
そのような時代背景に合わせて、地域名,価格帯,性別,職種など情報発信のコンセプトにあったコトバを入れて「〇〇〇グルメ」や「ぐるめ〇〇〇」というネーミングを考えてみてはいかがでしょうか。
<参考文献>
ニュース記事「A級グルメのまち」商標登録」/現代用語の基礎知識2012(自由国民社)/ウィキペディア-A級グルメ、B級グルメ,東京C級グルメとは?/自遊人サイト「雪国A級グルメ」/食品通販サイト「北のグルメ便」/ぐるなび関連サイト「まちぐるみ まちぐるめ」
2013年4月25日 著書 ゆうすけ
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