「コピーキャット 模倣者こそがイノベーションを起こす」の感想
弁理士の仕事は、お客様のアイデア(ネーミングや発明など)と既存のアイデアとを比較して差別化ポイントを明確にし、かつこのアイデアを法律(商標権や特許権)で守るお手伝いをすることがメインです。
ほとんどのネーミングや発明は、既存のアイデアの組み合わせでできています。そのため既存のアイデアを参考にして、お客様のアイデアを変更するアドバイスもします。つまりある種の模倣行為です。
そこで「コピーキャット 模倣者こそがイノベーションを起こす」を読んで感じたことや実践してみたいことを3つまとめました。
1.攻めと守りの両立がブランドを作り上げる
時代と共に技術が発達し、モノやサービスが増えたため、私たちの生活は豊かになりました。そのため以前より新しいアイデアが生まれにくくなっています。お客様は新しいと思っているアイデアでも、既存のアイデアを寄せ集めたにすぎない印象をうけることが少なくありません。この点について本書では以下のように述べています。
- 技術革新のペースは速く、商品のモデルはすぐに陳腐化する。目新しい商品や改良品が現われれば、発明者や先行者は大きな打撃を受ける。知識が形式知化され、標準化が進み、新しい製造技術が開発され、人材の移動が活発になったため、コピーが容易になっているのに、法的な保護は弱くなっている。(p42-43)
- 特許による保護は、・・・効果はそれほど大きくない。・・・模倣を遅らせる効果は六~十一%だった。(p60)
つまり既存のアイデアが増えれば増えるほどコピー品も増えるため、いわゆる“イタチごっこ”になってしまうということです。特許権や商標権は万能ではなく、これらを避ける迂回路が全くないとはいえません。
しかしだからと言って守る必要がない、守っても意味がない、というわけではありません。本書の最後にある「イモベーションを成功させるための10か条」でも、「第9条 攻撃して防御せよ」と書かれています。つまり模倣して創造したアイデアでイノベーションが起せたら、それは既存のアイデアとは差別化できた全く新しいアイデアです。そのため守らなければ、あっという間に完全コピーされ、ブランドを作ることはできません。
自分が生み出したアイデアであることを証明する商標権や特許権を取ってはじめてケンカの土俵にあがれるわけで、それを取っていなければ土俵にあがることすらできません。そのため弁理士は、お客様のアイデアが真似されにくいようにアレンジして商標権も特許権を取るように努めています。
2.模倣を美とするアップルの思想を取り入れる
アップルは、既存のアイデアを斬新な発想で再結合することこそ企画創造であるという考えを持っています。そんなアップルに対して『エコノミスト』誌は以下のように語っているようです。
- 「アップルはイノベーターだと広く考えられている・・・(中略)・・・しかし実際には、アップルの本領は、自社のアイディアと外部の技術を縫い合わせて、その成果にエレガントなソフトウェアとスタイリッシュなデザインをまとわせることにある・・・」(p104)
iPhoneやiPadは、機能よりも価格やデザインを重視していています。そのため劣化版のパーツを使ったり、外枠ケースを薄くする加工にこだわったりしているようです。つまりいいアイデアは真似し、見た目を変えることで新しいアイデアを生み出すのもイノベーションであることをアップルがわかりやすく証明してくれました。
そしてアップルは模倣のプロである分、模倣された後の影響も知っているため、ネーミングやデザインについて商標権や特許権を取得し、守りの対策もしっかり行っています。
3.成功事例を別の環境に移植する
ほとんどのネーミングや発明は、既存のアイデアの組み合わせです。しかし既存のアイデアとは、ライバルたちのアイデアに限らず、全く関係のないジャンルのアイデアでもよいわけです。このことについて本書では以下のように述べています。
- 一番成功していると思われるのが、モデルを別の環境に移植したインポーターである。・・・インポーターたちは、新しい領域のパイオニアになる利益を獲得しながら、うまくいくことが証明されているものを、基礎的な条件が似ているか、オリジナルよりも優れている環境の中で複製することでリスクを軽減しているからである。(p107-108)
つまり全く関係のないジャンルのアイデアでも、成功の実績があるため真似するメリットがあるということです。また全く関係のないジャンルなため、商標権や特許権の範囲から外れている可能性が高く、ケンカは避けられるはずです。
成功事例を別の環境に移植することで、失敗するリスクと文句をいわれるリスクを軽減できる大きな効果がありそうです。
まとめ
本書のとおり、模倣は成功の王道です。一方、商標権や特許権で守られているアイデアを模倣してはいけません(知らなかったでは済みません。)。したがって全く関係のないジャンルのアイデアか、または商標権や特許権を迂回するアイデアを模倣することをオススメします。
2013年4月28日 著書 ゆうすけ
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