プロダクトデザインを意匠と特許で守る訳
プロダクトデザインの保護といえば意匠、というのは皆さんご存知かと思いますが、特許でも保護できる、というのはあまり知られていないように感じています。
なんでか考えてみましたが、デザインという言葉にいろいろな定義があるからだと思うんです。デザインといえばビジュアル(見た目)というイメージが強く、テクノロジー(技術)とはイメージできないのかもしれません。
しかし、最近話題のプロダクトデザインは、ビジュアルの良さのみならず、テクノロジーの高さが際立ちます。オシャレでかっこいいだけじゃなく、機能も優れていないと売れないからでしょう。
photo credit: weighing machine via photopin (license)
プロダクトデザインを守る意匠と特許
まず「プロダクトデザインを守る」とは、デザインを知的財産権化し、他人が模倣したらその権利を主張して止めさせること、と定義します。ここで、プロダクトのビジュアル、テクノロジー、そしてこれらを融合したデザインと知的財産権との関係は以下の図になります。
左側の円は、ビジュアルのみが新しいプロダクトです。つまり、世の中の課題を解決するテクノロジーは持ち合わせていません。このようなプロダクトは、意匠のみで足ります。
右側の円は、テクノロジーのみが新しいプロダクトです。つまり、ビジュアルはなんでもいいんです。このようなプロダクトは、特許のみで足ります。
そして、双方の円が重なる部分は、デザイン(ビジュアル+テクノロジー)が新しいプロダクトです。このようなプロダクトは、どちらかのみ真似されるリスクがあるため、意匠と特許両方で保護するのばベターです。
意匠と特許で守られたプロダクトデザイン例
上の説明だけではよくわからないと思うので、事例をご紹介します。以下は、有名なプロダクトデザインの意匠と特許の登録件数の一覧です。
ユニ・チャームの「超立体」や「超快適」は、従来のマスクとは異なる特徴的なビジュアルのみならず、耳が痛くなるなど従来のマスクの課題を解決するテクノロジーがつまっています。そのため、意匠と特許でバランスよく保護しています。
マスクの原価は低いため、模倣されやすいと想定できます。そのため、原価の低い商品は、劣化品として真似され易い。だから、意匠を登録するメリットがあります。ビジュアルが似てる似てないの判断は、テクノロジーのそれより楽だからです。
しかし、テクノロジーも保護しなければ、ビジュアルを巧妙に変えたマスクに対抗できません。だから、特許として登録するメリットがあるわけです。特許は意匠より保護の範囲を広くできるため、ライバル会社にとっては脅威となります。
ワコールの「CW-X」は、スポートウェアとして多数のテクノロジーが搭載されているものの、やはり衣類系は原価も低いし製造も簡単なため、真似され易い。しかも、ビジュアルだけ。そのため、意匠を特許より多く登録し、ビジュアルの保護を重視した戦略といえそうです。
・・・CW―Xはテーピング機能部が幾何学模様となっており、見た目も特徴がある。そこで同社は下半身、上半身、膝など各部用の商品ごとにデザインも意匠登録した。理由は「模倣品は見た目だけをまねて機能がない場合も多く、特許だけでは守れない」(宮治直和CW―X商品課長)からだ。意匠でアイデアを守っているといえる。
<引用:2015/4/20 「模倣品、デザインで防げ 製造業、特許と二枚の盾」 by 日経新聞> ※下線は著者追加
バルミューダの「GreenFan Japan」はグッドデザイン賞も受賞している扇風機。シルエット(外枠)のみならず、ファン(羽)等も工夫され、それらを複合した新たな扇風機として話題です。
扇風機のようなハードウェア製品も、樹脂や金属の部材を量産するための金型、動力源となる電子部品、そしてこれらを組み立てる製造ラインがあれば、あっという間に真似されてしまうでしょう。
しかも、部品点数が多い製品ほど、部分的に真似されるリスクも高いです。例えば、扇風機の場合、正規品のテクノロジーは真似せず、シルエット(外枠)だけ真似した劣化品を販売されることもあります。
そのため、バルミューダの意匠の中には、シルエット(外枠)やファン(羽)のみの意匠もあります。さらに、風量の向上や省エネ等の課題を解決するテクノロジーとして特許も登録されており、しかも、現在出願中(登録前)の特許も多数あります。
活用面における意匠と特許のメリット・デメリット
このように、プロダクトデザインの特徴、模倣の難易度、模倣されやすい部分等を考慮すると、件数の差はありますが、意匠と特許の両方で守るのが適した戦略といえそうです。
そこで、権利の活用面における意匠と特許のメリットとデメリットをあらためて整理すると、以下のようになります。
意匠のメリットは、模倣の判断が特許より比較的楽なので、その分係争コストが嵩まない点です。さらに、1件当たりの取得コストが安めなので、資金面で不安要素がある会社にとってはお徳でしょう。
一方、意匠のデメリットとしては、権利範囲が狭めな点です。つまり、意匠と模倣品のビジュアルが少しでも異なると、模倣ではないと判断されるリスクがあります。
そのため、意匠は完全模倣品(デッドコピー)対策として有効です。しかし、商品パターンが複数ある場合、複数の意匠を登録するしなければなりません。
特許のメリット・デメリットは、意匠と逆です。つまり、メリットとしては、権利範囲が広く、1つの特許で複数の商品パターンの保護が可能です(保護できる商品パターンが少ないと、特許のメリットは目減りします)。
しかし、模倣の判断は、特許請求の範囲(文章)の書きっぷりで行うため大変です。その分係争コストも嵩むでしょう。さらに、1件当たりの取得コストが高めなので、資金不足の会社にとっては負担大です。
≪まとめ≫
プロダクトデザインは、新しいビジュアルとテクノロジーの結晶です。そのため、ビジュアルを意匠、テクノロジーを特許でそれぞれ保護するのが好ましい守り方と言えます。また、プロダクトデザインの特徴や模倣の可能性を考慮して、意匠や特許の登録件数や内容を検討すべきであり、活用面のメリット・デメリットを踏まえて実行することをおすすめします。
2016年4月13日
著者 ゆうすけ
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