『くまモン』の由来/意味-成功のなぞを徹底解明!
「くまモン」
ご存知、熊本県PRマスコットキャラクター、ゆるキャラグランプリ2011年王者です。
熊本弁で“熊本の人”を意味する「熊本者(読み:くまもともん)」から、「くまモン」と名づけられました。
なおくまモンは商標登録第5387806号として2011年2月4日に登録されていますが、続けて2012年に再度出願されていることが確認できます(2012年10月31日現在)。
<くまモンオフィシャルサイト>http://kumamon-official.jp/
そもそもいま『くまモン』がどれくらい成功してるかご存知ですか?
2012年1~6月までのキャラクター関連商品の売上は118億円以上です。すごいと思いませんか?内訳は以下です。
〇食品関連=98億9千万円
〇キーホルダーなどのグッズ=11億9千万円
〇衣類関連=1億5千万円
くまモンのネーミングやイラスト入りのお菓子やお酒が売れていることがわかります☆
ちなみに2011年の年間総売上は25億円。2012年は半年で前年の約5倍も売上げています。ではなぜ2012年にここまでブレイクしたと思いますか?
その答えの一つが、ネーミングの活用です。
2010年から2011年の間に、話題性・伝染性・中毒性のあるネーミングを連発し続けたことがブレイクの切っ掛けと考えられます。
ではどのようなネーミングを連発してきたのでしょうか?古い順にならべてみました。
1.『くまもとサプライズ』 2010年(平成22年)3月5日に発表
放送作家の小山薫堂氏が提唱。
熊本県から九州新幹線の鹿児島ルート全線開業を盛り上げてほしいとの依頼から、観光客に提示して熊本の良さを知ってもらおうという熊本県民のメッセージとして「サプライズ」というキーワードを活用しました。『くまモン』が生まれるキッカケとなった企画です。逆に『くまもとサプライズ』がなければ『くまモン』は生まれなかったということになります(笑)。
2.『くまモン』
実は『くまもとサプライズ』のおまけとしてつくられたキャラクター。熊本弁で“熊本の人”を意味する「熊本者(読み:くまもともん)」から、「くまモン」と名づけられました。「〇〇だモン!」というフレーズとからんでかわいいイメージがします。ひらがなとカタカナの組合せもいいですね♪
3.『くまモン体操』 2010年(平成22年)7月2日に発表
『くまもとサプライズ』PRに向けてくまモン隊出発式が行われたときに初披露されました。歌詞の最初は「くまもとが大好きでヨカッタ!!」この体操がインターネットの動画で拡散したことで、『くまモン』の認知度もあがりました。
4.『くまもとサプライズ特命全権大使』 2010年(平成22年)10月1日に発表
蒲島郁夫熊本県知事より、『くまモン』は『くまもとサプライズ特命全権大使』に任命。「1万枚の名刺を配り切って熊本の魅力を発信する」との使命をあずかりました。『くまモン』を応援するファンを増やす起爆剤となりました。
5.『大阪でくまモンを捜せキャンペーン』 2010年(平成22年)11月1日に発表
大阪府内で名刺配布に嫌気が差した『くまモン』が失踪したため、蒲島知事が緊急記者会見を開きました。大使としての使命、それに対するストレスからの失踪、そして『くまモン』の捜索をストーリーに仕立てたキャンペーン戦略。大阪の人の共感をえて励まされながら使命を果たすという『くまモン』の物語をソーシャルメディアと融合させて発信しました。
6.『くまモンファン感謝デー』 2011(平成23年)2月19日に開催
『大阪でくまモンを捜せキャンペーン』で半年間の大阪出張で使命を果たせた『くまモン』が、応援してくださった大阪のみなさんに感謝を込めておこなったイベントです。
7.『くまモン 東京へ行く』 2011(平成23年)7月1日にオープン
『くまモン』の東京進出用に開設されたブログ。ここから東京・関東地方を中心とした東日本での活動が本格的に開始しました。
http://kumamon-official.jp/tokyo/ ※現在は運営していません。
8.『くまもとミリオンプロジェクト』 2011(平成23年)9月30日に発表
熊本県の大阪市内(関西圏)での存在感向上のためのキャンペーン。『くまモン』が熊本県の臨時職員から知事直轄の営業部長に昇進しました。『くまモン』にはプロジェクトリーダーとして名刺3万枚の配布や関西地方の食品や菓子の企業に熊本県産食材を売り込むことなどのノルマがかされました。
9.『くまモン体操大集合』 2011(平成23年)10月2日に開催
東日本大震災の被災地・東北と日本中に元気をおくろうという企画。熊本城二の丸公園には3,900人が集まりました。
10.『くまモンまつり』 2011(平成23年)10月10日に開催
熊本駅周辺で「くまモングッズチャリティバザー」、「くまモンフォトアート展」、「くまモンファン感謝祭」が行われました。そして「くまモンファン感謝祭」では、「くまモンヒストリー」・「くまモン運動会」・「くまモン王座決定戦」・「くまモン劇団旗揚げ公演」といったコンテンツが目白押しでした。
これらのコンテンツを引き立てるネーミングが話題性・伝染性・中毒性を生んだ結果、2011(平成23年)11月27日の『 ゆるキャラグランプリ2011』では28万7,315票獲得してグランプリに輝きました!
これを機に『くまモン』人気は急上昇!『 ゆるキャラグランプリ2012』では『ゆるキャラアンバサダー(大使)』として不参加表明。王者の貫録ですね。
ここでもっとも注目すべきは、今の『くまモン』人気の火付け役となった2010年~2011年はじめの企画とそのネーミング(4~6)です。
4.『くまもとサプライズ特命全権大使』 ⇒ 5.『大阪でくまモンを捜せキャンペーン』 ⇒ 6.『くまモンファン感謝デー』
つまり『くまモン』が『くまもとサプライズ特命全権大使』として大阪に出張するという企画が話題性を生み、人々の注意(Attention)を引き付けました。
そんな使命を持った『くまモン』なのに突如ミッションを放棄して逃げ出すという失踪劇は、大阪の人々が愛する新喜劇なみにツッコミたくなるところ。そのため『くまモン』に興味(Intrest)が湧くと同時に、なんとかして見つけ出したいという欲望(Desire)がはたらきました。
そして『くまモンファン感謝デー』では吉本興業所属の芸人さんたちが応援に来たり大阪のゆるキャラたちとゲームしたりして、大阪の人々の記憶(Memory)に『くまモン』が焼きつきました。
したがって『くまモンファン感謝デー』ではくまモングッズを買ったり、2011年秋の『くまもとミリオンプロジェクト』で『くまモン』の熊本PR活動を再び応援したりするなど、大阪の人々の行動(Action)につながりました。
つまり『くまモン』は、AIDMA(アイドマ)の法則を活用して関西エリアで認知度を上げ、『ゆるキャラ』から『“売るキャラ”』に成長したと考えられます。
では認知度が向上しただけで『くまモン』のキャラクター関連商品の売上が2012年の半年で前年の約5倍になったのでしょうか?
実は、このカラクリは2つあります。
一つは、『くまモン』のキャラクター使用料を無料にしたことです。
熊本県は『くまモン』の文字商標を3件もっています(うち2件は登録済み)。※2013年1月時点
したがって『くまモン』というフレーズをつかってグッズを販売すると熊本県の商標権を侵害することになります。そして侵害している業者に対して、熊本県はその販売をやめさせることができます。またやめなくてもいいけど使用料を払ってね、ということができるのです。
ところが熊本県は『くまモン』のフレーズやキャラクターをつかってグッズを販売する業者に使用料の支払いをもとめていません。許可させとれば自由に使えるようにしています。
それはなぜだと思いますか?
熊本県は『くまモン』の使用料収入をえるより、関連グッズを各地で自由に販売することで、人々に熊本県の食品などの名産物を知ってもらうことを狙いとしました。(利用許諾件数は2012年8月時点で6千件突破)。
つまり『くまモン』というキャラクターを通じて、熊本県の名産物を買いたいという気持ちをたかぶらせることに成功したのです。
さらに熊本県の名産物を食べた人たちや、その熊本県のうわさを聞いた人たちを、熊本県に行ってみたいという気持ちにさせることができました。
その結果、九州新幹線が開通した2011年、関西より西方面からの宿泊客数は、2010年と比べると6割以上増加しました。
つまり、『くまモン』グッズを無料で販売させグッズを広めることで人々の熊本県に対する注意(Attention)を引き付け、そのグッズや名産を買った人々に熊本県への興味(Intrest)をわかせ、行きたい欲望(Desire)がめばえ、『くまモン』というキャラクターがその人たちの記憶(Memory)に焼きついたため、熊本県を観光し、さらに観光客に『くまモン』グッズを買ってもらう行動(Action)につなげることができました。
ここでもAIDMA(アイドマ)の法則を活用することで、結果的に熊本県が多くの収入を得ることに成功したと考えられます。
ちなみに『ひこにゃん』の関連商品の売上は、2007年~2011年のトータルで51億円です。『くまモン』のすごさがわかりますね。『くまモン』のキャラクター関連商品の売上5倍増のカラクリが1つわかりました。
でも、そもそも『くまモン』を使用したいと業者が思ったのはなぜでしょうか?いくら無料でも人気のないキャラクターをつかっては売れないですよね(笑)
たしかに、4.『くまもとサプライズ特命全権大使』 ⇒ 5.『大阪でくまモンを捜せキャンペーン』 ⇒ 6.『くまモンファン感謝デー』で、関西エリアの認知度を上げました。
ところが、一種の“流行りもの”に終わらせることなく『くまモン』人気を定着できた理由はなんでしょうか?
それはソーシャルメディアの活用です。
2011年9月16日に熊本県はフェイスブックページ『くまモンオフィシャル』をオープン。これは関西エリアでの認知度を向上させ、『くまもとミリオンプロジェクト』を立ち上げる2011(平成23年)9月30日直前のタイミング。
最初『くまもとサプライズ特命全権大使』として大阪出張をしたときはツイッターで話題性をうみましたが、2回目の大阪出張のときはフェイスブックの“口コミ”を利用して『くまモン』の固定ファンを増やすことに成功したと考えられます。
1日1回は写真付きの書き込みをしていて、楽しさが伝わります。また一番上の行には投稿を読みたくさせる“仕掛けタイトル”があります。
そしてフェイスブックページに続き、2011年10月6日には『くまモンオフィシャルサイト』がオープン。オフィシャルサイトとフェイスブックページをうまくリンクさせ、オフィシャルサイトにみちびく“動線”をはっています。例えば1月7日の投稿では、「くまモンファン感謝デーに来てほしいモン☆」でした。結果として、5000人以上が“いいね!”を押しています。
例えば、1月7日の投稿では下記の動線がはってあります。
「くわしくは以下をご覧ください(現在、非常に込み合っていますので、時間をずらしてご覧ください) http://kumamon-official.jp/information#22330」
つまりフェイスブックページユーザーの中で、『くまモン』に興味をもった人がオフィシャルサイトで“次のアクション”をする仕組みです。
このようにフェイスブックページでユーザーの心をゆさぶりながら『くまモン』のファンをつくり、オフィシャルサイトでイベント参加申込やグッズ購入をしてもらうことが狙いと考えられます。
注目すべきポイントは、『くまモン』というキラーコンテンツをカバーできる“ホームグラウンド”を構築したこと。キャラクター人気が先行しても、その人気を受け取る“器”がなければファンを取りこぼしてしまいます。
では『くまモン』の“ホームグラウンド”でファンを取りこぼさない“器”になっている『くまモンオフィシャルサイト』とはどういう構造になっているでしょうか?
まず注目すべきは中央の『くまモン』の写真。大きくてインパクト大!その左にあるタイムリーなイベント『くまモンファン感謝デー』の詳細ページにとぶリンクがはられています。
つまり『くまモン』の写真で引き付けられ、感謝デーに興味がなくてもついリンクボタンを押したくなってしまう仕掛けです。
次に左上の“くまモンロゴ”と、その下に縦に並んでいる10個の“カテゴリー”。人がウエブサイトを見るときの視線は、左上から“Z”か“F”の文字をえがくようです。
したがって『くまモンオフィシャルサイト』にとって重要な10個の“カテゴリー”は、ユーザーの行動心理に最も適した場所に配置されていると考えられます。
では10個の“カテゴリー”を上から見てみましょう。
1 『くまモン隊出動スケジュール』
2 『くまモン利用申請』
3 『くまモン出動依頼』
4 『県からのお知らせ』
5 『プレゼントダウンロード』
6 『くまモングッズ』
7 『くまモンブログ』
8 『くまモンファン広場』
9 『くまモン自己紹介』
10『サイトマップ』
まず一番上にある『くまモン隊出動スケジュール』。これを開くと月毎のカレンダーが表示され、『くまモン』の予定を把握できます。なぜトップに『くまモン隊出動スケジュール』を配置したか?
それはひとえに『くまモン』の人気っぷりをアピールしているためと考えられます。なぜかわざわざスケジュールを公開してまで人気っぷりをアピールしているのでしょうか?
それは、そのすぐ下にある『くまモン利用申請』に誘導するためです。前回もお伝えしたとおり、『くまモン』のキャラクター関連商品が半年で2011年の売上の5倍増になったカラクリは、無料で使用させたことにあります。
つまり熊本県の最大の狙いは『くまモン』を無料で使ってもらい拡散させることが、このサイト構造からも推測できます。もしそうでなければ、『くまモン出動依頼』を『くまモン隊出動スケジュール』のすぐ下におきませんか?
さらに『県からのお知らせ』の下には『プレゼントダウンロード』がきています。ページ内に記載してあるように、
「くまモンアイテムダウンロードでもっともっとよろしくま!」なんて“仕掛フレーズ”をみたら思わずダウンロードしたくなりませんか(笑)。ここでも『くまモン』拡散の狙いが伺えます。
そして『プレゼントダウンロード』のすぐ下には『くまモングッズ』ボタンが配置されています。AIDMAの法則の“I(興味)”をふくらませた上でグッズ販売につなげています。
そこからは、『くまモンブログ』、『くまモンファン広場』『くまモン自己紹介』、『サイトマップ』となっています。
下のほうにこれらくまモン情報ボタンを配置したのは、もはや『くまモン』ファンが集まるサイトなので『くまモン』情報を提供する優先順位は低いと考えてよさそうです。
ちなみに説明したサイト構造は、デスクトップPCから見える画面です。スマートフォンや手のひらタブレットの表示では、『くまモン利用申請』がありません。これはモバイルユーザーにとって『くまモン』の利用申請は不要であり、無駄なものははぶく狙いがうかがえます。
まとめると、『くまモンオフィシャルサイト』をPC上で開くと、スクロールせずに最も重要な10個の“カテゴリー”が左側に縦列されているため、『くまモン』ファンを迷わせない仕組みになっています。
そして特に『くまモン』を無料で使用したい食品やグッズの業者に対して最大限の誠意を尽くしているようです。
なおスクロールすると10個の“カテゴリー”に関連する情報がちりばめられています。また右端にはツイッターやフェイスブックとの“動線”もしっかり貼られています。
このように『くまモンオフィシャルサイト』は、よ~くみると仕掛けだらけの“ホームグラウンド”に仕上げられていました。
もしお時間あれば、『ひこにゃん』や『せんとくん』のオフィシャルサイトと見比べてみてください。
<関連ページ>
くまモンvsディズニー ブランド戦略の本質と版権ビジネス 3つの違い
<参考サイト>
〇日経新聞Web刊
『企画力次第で、お金には違う価値(家計と資産セミナー) 放送作家 小山薫堂氏』
『「ひこにゃん」効果で観光客倍増 ご当地キャラが熱い 』
〇BIGLOBEニュース
『熊本県営業部長「くまモン」経済効果25億円の秘密』
〇読売ADリポート
『メディア戦略とストーリー性で経済効果を高める「くまモン」』
〇熊本県
『くまモンpresents「くまモンファン感謝デー」詳細決定!』
著書 ゆうすけ
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