職務発明も特許のオープン化も発明者の尊重が鍵になる
発明を生み出すのはあくまでも人であり、会社の場合は従業員にあたります。そして大企業の場合、従業員が考えた発明は会社に特許を受ける権利が移る規定を設けているところがほとんどです。これがいわゆる職務発明規定です。そのため従業員は会社にあたえた特許に対する対価(報酬)を請求できる制度になっています。
一方、アメリカにはこのような職務発明制度はなく、従業員と会社間の契約でなりたっています。つまり会社からの報酬(株やストックオプション含む)が気に食わなければ、その発明をあげないよって言えます(これが認められるかどうかは裁判次第です)。だからアメリカでは従業員の発明に対して評価する習慣があるため、日本のように対価の額が気に食わないというもめ事は起りにくいようです。
さらにアメリカでは従業員の発明のおかげで取得できた特許をオープン化する動きもあります。オープン化とは、その特許をつかっても独占権を振りかざさないということです。これによりライバル会社はその特許を気にせず技術開発を進められるため、マーケットそのものの拡大を図れるわけです。そしてこのような好循環によりまた新たな発明者が生まれる可能性も秘めています。
つまりアメリカでは、成果をあげない従業員に対してはシビアなものの、従業員(発明者)からイノベーションが起りやすい環境であると言えそうです。
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見合った報酬で発明者を尊重
引用:2014/3/24 特許庁「職務発明制度に関するアンケート調査結果について」
現在法改正に向けて議論されている日本の職務発明制度は、ある意味でアメリカ式とも言えます。つまり基本的に従業員の発明は会社に特許を受ける権利を付与するというもので、その報酬は従業員と会社間の契約(職務規定)で決定するというものです。
しかしながらその法改正の目的がもし仮に「職務発明訴訟の撲滅」では、アメリカのように発明者を尊重する環境にはなりにくいのではないでしょうか。わかりやすくいうと、ジャイアン的発想(俺のものは俺のもの、のび太のものは俺のもの)に感じてしまいます。
上のアンケート結果からも、従業員は発明に対するそれ相応の対価(報酬)を期待していることがわかります。つまり会社が契約で押さえつけ、見合った報酬を与えないとしたら、それはイノベーションの妨げになる恐れがありそうです。
発明者を尊重する環境が大切
Twitterでは、才能ある従業員が取得した特許が将来、他の人々によるイノベーションを邪魔するために使用されるかもしれないことへの懸念から、この試みを開始したとしている。(引用:2012/4/18 internet.watch「米Twitter、「特許は防御にしか使用しない」~法的文書のドラフトを公開」)
技術リーダーシップは特許で決まるのではない。歴史が示すように、特許は手強い競争相手にとってはちっぽけな保護にしかならない。むしろ、能力の高いエンジニアを誘致し動機づけをする企業の能力により決まるのである。(引用:2014/6/14 ハフィントンポスト「テスラのイーロン・マスク、特許を全面開放する決断に込められた「信念」」)
また特許をオープンにする(開放する)ということは、その特許技術を利用して技術開発を行うことができるため、新たなイノベーションの可能性が高まります。一方、特許をクローズする(囲い込む)ということは、その特許技術の範囲に気をつけながら技術開発しなければならないため、新たなイノベーションには相当の手間がかかります。
このように特許をクローズすると、発明者にとって窮屈な環境になりかねないので、マーケットの拡大のみならず新たな発明者の創出にも悪影響であるという考えがトレンドになるかもしれません。
≪まとめ≫
職務発明も特許のオープン化もイノベーション創出への”環境づくり”に役立つかどうかが判断のカギになりそうです。
2014年6月16日
著者 ゆうすけ
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