スマホでもライブ映像を楽しめる「テイクアウトライブ」の特許戦略を分析
ライブの映像や歌声を家でも簡単に聞けたらいいな~なんて思ったことありませんか?CDとライブはまったく別物で、ファンにとってライブはたまらないものでしょう。
また歌手やバンドにとってライブは営業活動の一環であるものの、その場限りではファンも増えないためCDやDVDの販売も行うわけです。でもそれだとライブ直後の熱は覚めてしまう。鉄は熱いうちに叩きたいわけです。
そんなファンとアーティストをホットにつなぐシステムがフォネックス・コミュニケーションズの「テイクアウトライブ」です。QRコードをスマホで読み込むとライブ映像が配信される仕組みで、発明者は歌手の野口五郎さん。2011年に特許も取得し、名義は本名(佐藤靖)となっています。
そこでテイクアウトライブ特許の仕組とその戦略を分析しました。
ダウンロードできるのは本人のスマホのみ
テイクアウトライブ特許の最大の特徴は、最初にライブ映像をダウンロードしたスマホ以外では、次からダウンロードできない点です。つまり最初にライブ映像をダウンロードするとき、スマホ特有の情報(スマホの製造番号など)も送信され、その情報がサーバーに記憶されます。そのため次から違うスマホでダウンロードしようとすると、サーバーに記憶されている最初のスマホ特有の情報と異なる情報が送信されるため、サーバーがダウンロードを許可しません。
特許では、スマホの機種固有情報をサーバーが抽出し、記憶された機種固有情報との一致・不一致を照合すると書かれています(図面赤矢印部分)。一致すれば、スマホにダウンロード画面が表示されますが、不一致の場合はエラーメッセージが表示されます。
特許取得まで約3年
この特許は、2008年6月30日に申請(出願)されました。特許は出願しただけではダメで、出願した日から3年以内に出願審査請求をしなければなりません。つまり審査してー!とあらためてお願いしないと、特許にならないわけです。そのため3年たつギリギリの2011年5月25日に出願審査請求をしました。
注目すべきは、このときに早期審査の要求をしているのです。早期審査とは、簡単に言うと、早く審査してくれ!というものです。特許庁の運用上、出願審査請求をしてから実際に審査が始まるまで平均1~2年かかります。そのため早く特許にならないとこまる理由(たとえば、第三者に真似されている)があれば、審査待ちの特許をすっ飛ばしていち早く審査してくれます。
そして審査を通過し、同年11月11日に特許を取得しました。特許取得まで平均年数(4~5年)と比べると、1年も早く結果が出ています。そして特許取得後、2012年10月14日にテストリリースし、2013年2月10日に本格リリースをしているところは、特許戦略上理想的なスケジュールと言えます。
発明の切っ掛けは路上ライブのアーティスト支援
もともと野口五郎さんがこの発明を考えた切っ掛けは、路上ライブのアーティスト支援だったようです。
野口五郎さんが7年前に発案したきっかけについて、フォネックス・コミュニケーションズの開発責任者は、取材にこう説明する。
「野口さんは、路上ライブをするアーティストがCDやDVDを自ら焼いて販売する姿を見て、なんとか歌や演奏に集中できないかと考えていました。それも最近は、CDプレーヤーなどを持っておらず、スマホを持ち歩いている若者たちが多い。そこで、歌などを簡単にダウンロードできるサービスがあれば便利だと思いついたと聞いています」(引用:JCASTニュース 2013/10/26「野口五郎発案のスマホサービスが大反響 「実にスマートなアイデア」と驚きの声」)
特許をとるには、従来の問題点を解決するストーリーが大切です。つまり今まで困っていたことも、このアイデアがあればこんなによくなる、だから特許になるでしょ!というロジックです。
またCDやDVDを販売する手間を省くだけでなく、ライブ映像の著作権についても野口さんは考えています。
・・・そのため、本出願人は、携帯電話がかかる機種固有情報を有する点に着目し、コンテンツのダウンロード要求は同一の携帯電話からのみを受け付けるシステムを考案した。つまり、コンテンツ商品は特定できないが、視聴器具(携帯電話)を特定し、その特定された器具でのみ視聴可とすることにより、著作権侵害を軽減させることを目的とするシステムである。(引用:特許第4859882号公報【0009】)
コンテンツビジネスでは、コンテンツ(音楽や映像)そのものが命です。そしてコンテンツを提供してくるのは、歌手・バンド・作詞家・作曲家であり、彼らの著作権者を優遇しなければ、コンテンツビジネスは成立しません。その点も考えた発明としてこの特許は画期的です。
≪ピッタリナまとめ≫
特許はハードルが高いと思われがちですが、テイクアウトライブのようなシンプルな仕組みでも取ることができます。つまり情報のインプットとアウトプットのロジックに特徴があれば、特許を取れる可能性があるわけです。さらに特許を取るにはストーリーも大切です。どんな問題があって、その問題を解決することが特許の目的であり、解決する手段が従来の技術と違う、この論理展開ができれば、審査官も納得してくれるはずです。
<参考サイト>
・JCASTニュース 2013/10/26「野口五郎発案のスマホサービスが大反響 「実にスマートなアイデア」と驚きの声」
・ORICON BiZonline 2013/10/28「野口五郎が発案、ライブの感動を持ち帰る「テイクアウトライブ」」
・BLOGOS 2013/10/13「日本のコンテンツ産業の今後 「グーグル、アップルに負けない著作権法」他」
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