日本のコンテンツ産業の今後 「グーグル、アップルに負けない著作権法」他
コンテンツ産業とは、音楽、本、映画、ドラマ、アニメ、ゲームなどモノではない制作物を主体する産業のことで、日本発コンテンツの世界シェアは2位で13%。1位で37%のアメリカには劣るものの、3位で5%の中国との差は大きいようです(2011年経済産業省/「クール・ジャパン戦略推進事業調査報告書」)。いわゆる白物家電など日本のお家芸とも言える元祖モノづくりのビジネスが低迷してきた中、日本の次の一手はコンテンツ産業だ!といろんなところで騒がれています。
一方で海外では日本より早くコンテンツ産業が発達し、プラットフォームを提供するギャング4(アップル、グーグル、アマゾン、コボ)がクローズド戦略でモノポリー化(市場を独占)したため、日本のコンテンツ産業も危機的状況であると角川氏は説いています。簡単にいうと、プラットフォームに参加できるかどうかは審査次第、販売価格は言い値という仕組みが、コンテンツをウリにする日本にとっては不利だということです。
たしかにiTunes Storeやキンドルストアなどのプラットフォームにより、私たちはいつでもどこでも簡単にコンテンツを楽しむことができるようになりました。しかしそこにはコンテンツの提供者が必ずいるわけで、コンテンツ自体が面白くなければ利益は発生しません。つまりコンテンツが重要なことをわかっているにも関わらず、モノポリー者に独占されてしまうのは、コンテンツの提供者にとって酷なのではないでしょうか。
そこで、日本のコンテンツ産業の今後について、「グーグル、アップルに負けない著作権法(著・角川歴彦氏)」の内容やクール・ジャパン戦略について調べたことをまとめました。
・スマートテレビの普及は目前
地デジ放送の開始により、テレビ放送をインターネットで配信することも技術的に可能になりました。スマホ、タブレット、パソコンにテレビを加えた4スクリーン時代の幕開けです。そしてテレビのポテンシャルは計り知れず、ネット事業者はなんとしてもインターネット配信を実現させたいと目論んでいます。
テレビコンテンツの規模の大きさは、インターネットのトラフィック量の大きさで表現できる。現在は毎年2倍から3倍で膨らんでいるが、アカマイのトム・レイトンは、もしも従来型テレビが全てネット化すれば500倍が必要になるという(『知の逆転』)。ネットフリックスは現在アメリカで最大の映画とテレビの配信会社だが、19時から21時のトラフィック量の30%を1社で占有しているというから、500倍という数字はあながち驚くにあたらない。
だからこそ、クラウドプロバイダーの視線はいやがおうでもテレビ業界と、大衆の娯楽の中心にある魅力的なコンテンツにそそがれる。イノベーションとグローバリゼーションがテレビ業界を必ず襲う。テレビ局の抵抗がどれほど凄まじく大きくてもだ。(p100)
この背景の中、パナソニックはスマートビエラを2013年4月は発売しました。スマートビエラはパソコンまでの機能はないものの、ネットワーク端末としてタブレットと同程度の機能を持っていると評価されています。ネットサーフィンやSkypeもできるし、YouTubeも見られます。つまり4スクリーン時代に適したテレビと言えます。
個人のメディア接触時間は1日平均4時間24分で、そのうち9割(4時間)は4スクリーンで消費しています。イノベーションとグローバリゼーションを考えると、スマートテレビの普及は日本のコンテンツ産業の大きな柱になるでしょう。しかし4スクリーン戦略が実現すれば、テレビ局やコンテンツの制作サイドはネット業界に振り回される恐れがあります。グーグルテレビやiTVの普及によるモノポリー化をさけるためにも、コンテンツに対する著作権法の整備が必要でしょう。
・エコシステム2.0の提案
エコシステムとは、生物学上は生態系を意味するが、一般的に使われている意味としてはIT業界から生まれ、その概念はスティーブ・ジョブズが発明したとも言われています。つまりiPod、iPad、iPhoneなどのスマート端末のみならず、クラウドによるiTuens Storeによるビジネスモデルがジョブズのエコシステムそのものになります。しかしIT評論家からは、アップルはクローズドだと批判されました。角川氏も電子書籍を巡る一連のやり取りについて、以下のように言っています。
アップルは日本でもiTunes StoreでiBooksをスタートさせたいという話だった。KADOKAWAはグループ内の株式会社BOOK☆WALKERを通じて電子書籍を販売してきた。iOSについては、ipod発売と同じ年、2010年に、「BOOK☆WALKER」アプリをリリース、電子書籍のeコマースをスタートしてきた。これまでは価格のつけ方に始まって、アップル独特のスタイルにふりまわされることが多かった。アップルはモノポリー者のやり方を地球の裏側の日本でも容赦なく発揮してきたのである。有名な話だが、アップルはストア内で売買するコンテンツの内容を非公開のアップル基準で審査してきた。最も大きな障害は、どの本を扱うかがアップルの一方的な判断で決められることだった。(p159)。
つまりインテルがCPUなど半導体の開発力を武器にパソコンメーカーを従わせる「インテル・インサイド思想」と同じように、アップルはジョブズのエコシステムを武器にコンテンツの提供者を従わせる「アップル・アウトサイド思想」戦略を実現させました。これが日本のコンテンツ産業を揺るがすクローズド戦略になっているわけです。
そこで角川氏はエコシステム2.0を提案しています。簡単にいうと、コンテンツの提供者がプラットフォームをつくり、ストア(iTunes Storeなど)にコンテンツを提供するものです。
大衆の自由意志が尊重される民主主義の時代にあって、モノポリー者の恣意的判断で文化の許容範囲が決まってはならない。エコシステム2.0のプラットフォームではコンテンツのリジェクションはしない。社会的批判はプラットフォームにコンテンツを提供した事業者の責任を第一とする。(p186)。
コンテンツの中には、人に感動を与え人生に影響するほどのプレミアムコンテンツもあり、コモディティ化させないためにプラットフォーム側が努力すべきと角川氏は説いています。またギャング4のモノポリー化には、著作権法や特許法を国内法から万国共通の国際法へと拡大し、新しい知財法で対応するしかないと角川氏は危惧しています。
・政府はクール・ジャパン戦略を実施中
日本政府としてもコンテンツビジネスはコア産業にしたいと思案しています。そこで2010年にクール・ジャパン室を経済産業省に設置。クール・ジャパン戦略は、クリエイティブ産業の海外進出促進、国内外への発信や人材育成等の政府横断的施策の企画立案及び推進を行うものです。そこで平成24年7月に発表したクール・ジャパン戦略にて、2020年までに世界市場のうち8-11兆円の獲得を目指すと明文化すると共に、海外展開支援と発信ルートの概念図を公開しています。
注目したいのが、アジア諸国向けコンテンツ配信プラットフォーム「グロザス」。グロザスは、2012年5月に株式会社産業革新機構とニフティ株式会社の2社の出資を受けて設立されました。
主な活動内容は、日本のデジタルコンテンツを海外利用者向けに提供するためのビジネスプラットフォームの構築。国内のコンテンツプロバイダーが保有するデジタルコンテンツを、インドネシア・マレーシア・タイ・ベトナムなどアジア諸国に提供するための支援を通じ、日本のデジタルコンテンツの活性化を支援しています。 またグロザスはオープン・イノベーションの考えに基づいています。
≪まとめ≫
ITイノベーションによりコンテンツが流動化する反面、権利関係がごちゃごちゃになってきているのは確かです。そしてオープンと見せかけて着々と自分たちの権利を積み上げ、気づくと巨大なクローズ戦略を構築していくモノポリー集団により、コンテンツを提供する権利者が優遇されない仕組みができあがってしまいました。一方で、海外に日本の価値あるコンテンツを発信し、提供者が適切な利益を得られる仕組みもクール・ジャパン戦略で施行されています。
権利にしがみつく時代ではないものの、コンテンツ提供者としては少なくとも著作権を主張できるようにすべきでしょう。権利がなければ主張すらできないからです。そしてコンテンツのプラットフォームとしては、採用基準、販売価格、利益分配などオープンな関係を気づき、コンテンツ自体の価値を下げない活動が必要なのではないでしょうか。
2013年10月12日
著者 ゆうすけ
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