小売業のブランド戦略を後押しする知的財産活動事例
小売業といえば、スーパー、コンビニ、量販店、ドラッグストア、ネットショップなど主に商品を販売する業種を意味します。
そして、店舗の増加・プライベート商品の開発・オムニチャネル化など小売業が成長するためにすべきことは様々です。
その点、ブランド戦略の狙いを一言で表すとすれば、小売業の成長に欠かせないユーザー(ファン)の獲得、と言えそうです。
つまり、ブランド戦略は小売業の成長を中長期的に支える土台であり、この土台をどう保護するかも、ブランド戦略の大切な一環でしょう。
そこで、小売業のブランド戦略を後押しする5つの知的財産活動を紹介します。
photo credit: 7-Eleven, Kyoto via photopin (license)
店名・商品名・ロゴの保護
小売業の店名以外にも、プライベートブランドの商品名やロゴ(以下、「商標」)は、ユーザーが小売業の存在を認識するためものであり、とても重要です。
ユーザーが一目見れば、「あれはあのお店の商品だから安心だね!」といった信頼感を与える、それが商標のあるべき姿です。
このような信頼感をユーザーにあたえるのは簡単ではありません。しかし、ライバル会社が商標をパクッてこの信頼感に相乗りすることは簡単です。
つまり、商標登録は、ユーザーに対する信頼感を保護することでであり、これはブランドに傷がつかないようにすることになります。
例えば、店名を商標登録する場合は小売等役務(35類)を指定し、、プライベートブランドの商品名を商標登録する場合は各種商品(29、30、31、32類など)を指定します。
ちなみに、株式会社セブン-イレブン・ジャパンの商標登録件数(出願中含む)は342件でした(2015/12/14 J-PlatPat調べ)。
このうち、プライベートブランド「金の・・・」シリーズでは、8件の商標登録がされていました(以下、商標登録検索画面の引用)。シリーズモノ及びこのネーミングの商標登録も大事なブランド戦略でしょう。
なお、商標登録した後は、商標登録の表示(「 ®」、「XXXの登録商標です」など)を商品やウェブサイトでして、常日頃から商標権の所有者であることを伝える努力も必要です。
包装容器・パッケージの保護
最近の小売業、特に店舗を持つ小売業者は、他社商品(ナショナルブランド)のみならず、自社商品(プライベートブランド)の販売にも力を入れています。
プライベートブランドをマーケティングすることで、利益率の高い収益源を確保できるばかりでなく、ナショナルブランドメーカーとの交渉も優位に進められるメリットがあります(ナショナルブランドにとっては脅威ですね)。
そして、プライベートブランドでは、商品の中身(飲食料など)も大事ですが、外見(包装容器やパッケージ)も中身と同じかそれ以上に大事です。
また、商品名やロゴと異なり、包装容器やパッケージはユーザーの手に触れるため、その手触り感や使い勝手をよくするデザインが必要です。
例えば、惣菜の包装容器やパッケージでさえ、中身を入れるだけのものと考えるのは愚の骨頂です。美味しそうにみせる色や模様、中身をとり易い形状など、工夫点は多数あります。
そのため、包装容器やパッケージを保護するための意匠登録は、他社品(ナショナルブランドや他のプライベートブランド)と差異化するデザインを保護することでであり、これもブランドに傷がつかないようにすることにつながります。
しかし、実際には、包装容器・パッケージメーカーと共同でデザインの企画・開発を行い、この包装容器・パッケージメーカーが意匠登録をするパターンが多いようです(小売業各社が包装容器やパッケージそのものを販売するわけではないためです)。
また、包装容器やパッケージに付すラベルについても、意匠登録で保護することができます。一方、ラベルは商品名やロゴで構成されているため、商標登録のみでよいのでは?という検討はもちろん必要です。
しかし、商標登録の保護範囲は指定商品に限定されてしまいます。例えば、ラベルの商標を飲食品を指定して登録すると、文房具に貼られたラベルのパクリ行為に対し、商標権は主張できません。
店舗の内装の保護
小売業のうち、店舗を展開している業態にとっては、内装は力の入れどころです。なぜなら、内装はユーザーの満足度(CS)アップのみならず、在庫管理の省スペース化、現品管理や現品補充の効率化も図れるからです。
例えば、ユニクロの場合、壁際に天井に届きそうなほど高い陳列棚、手前にはユーザーの目線より低い陳列棚ををつかっています。これは、ユーザーが商品を探しやすい上、在庫と現品の管理を効率よく行えるためです。
つまり、店舗の内装も他社と差異化する大きなポイントとなると言えます。では、このように工夫した店舗の内装を、知的財産としてどのように保護すればいいでしょうか。
結論から言うと、店舗の内装そのものを登録して的確に保護している事例は見当たりません。(かろうじて、ファミリーマートが店舗の外装を立体商標として登録した事例はあります(以下、商標登録内容画面の引用))。
また、過去には西松屋がイオンリテールに対して、店舗の内装が似ていることから不正競争防止法違反を主張した事件がありましたが、この主張は認められませんでした(平成21(ワ)6755 不正競争行為差止等請求事件 平成22年12月16日 大阪地方裁判所)。
しかし、店舗の内装そのものの保護が難しいとしても、内装を構成するパーツ(ポップ上のロゴやキャッチフレーズ、陳列棚等)は商標登録や意匠登録で保護することができます。
例えば、アップルは「ジーニアス・バー(GENIUS BAR)」の商標登録のみならず、アップルストアーで使っているテーブルや陳列棚のデザインを意匠登録して保護しています(以下、意匠登録検索画面の引用)。
このように、店舗の内装のうち、どの部分が知的財産として保護しやすいか?保護しにくい部分はどのようにオリジナルの内装であることをユーザーに伝えるか?などの検討も大切です。
ウェブサイトの保護
会社のホームページ、商品専用ウェブページ、ECサイトなど、小売業のみならず全ての業種になくてはならない存在になったウェブサイト。検索エンジンから将来のファンになるかもしれない潜在的なユーザーの発掘も期待できます。
つまり、ウェブサイトはブランドの発信ツールとも言えます。商品を買うか迷ってるとき、店舗で実物を見るときもあれば、商品専用ウェブページを見るときもあるからです。その逆も当然あります(O2O:Online to Offline)。
しかし、このようなユーザー心理を狙ったウェブサイトのパクリ被害も急増しており、民間企業・公共団体・政府がウェブ上で偽サイトに騙されないよう注意を促しています(検索エンジンで「ウェブサイト 模倣」と入力すると多数ヒットします)。
本来であれば、ウェブサイトは著作物になりえるため、著作権での保護が考えられます。しかし、知能犯が多く、偽名やウソの住所を記載している場合には、模倣者を特定しにくい側目もあります。
そこで考えられる対策が、検索エンジンのインデックスからの削除要求です。これは、検索エンジン大手のGoogle社に対して、DMCA(Digital Millennium Copyright Act)の申し立てを行うものですが、認められるかどうかはGoogle社の判断になります。
また、日本国内では警視庁のサイバー犯罪対策への問い合わせも対策の一つと考えられます。
なお、このような事後対策以外に、ウェブサイトの各ページやオリジナル画像に著作権の表示(「© 」、「Copy Right」など)をして、常日頃から著作権の所有者であることを伝える努力も必要です。
店舗で発見したアイデアの保護
小売業はユーザー(消費者)と直に接するため、要望や何気ない行動をタイムリーに把握することができます。現場の問題を収集し、これらをカイゼンすることで新たな価値が生まれるでしょう。
そして、現場から生まれた新たなアイデアのうち、例えば、食品を最適に冷却・保温する装置や商品を効率よく陳列をする棚など、技術的な要素を含むものは、特許や実用新案で保護できます。
これも実際には包装容器やパッケージと同様、小売業が自社開発するというより、各メーカーと共同開発するのが現実的だと思います。各メーカーにとっても実用的な商品の共同開発はメリットがあるはずです。
例えば、ローソンの場合、冷却システム(特開2015-14835)やショーケース(特開2015-14862)の特許をメーカーと共同出願しています。
サービス向上につながるアイデアの活用はブランド戦略につながるはずです。そのアイデアを活かすかどうかは経営判断の一つとも考えられます。
≪まとめ≫
小売業のブランド戦略を後押しする5つの知的財産活動をまとめると、以下の5つになります。
商品名やロゴの保護
包装容器・パッケージの保護
店舗の内装の保護
ウェブサイトの保護
店舗で発見したアイデアの保護
念のためつけ加えると、知的財産活動自体はブランド戦略ではないということです。ブランド戦略は永続的なファンを獲得し、会社の成長につながる活動です。
知的財産活動やいわゆる知財戦略は、ブランド戦略の成功を後押しするもので、事業計画と合わせて中長期的に行うことで効果が出てくるでしょう。
2015年12月16日
著者 ゆうすけ
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