『下町ロケット』第2話から学ぶ、あなたの知らない特許の世界(ネタバレ注意!)
『下町ロケット』第2話が昨日(2015/10/25)に放送されました。視聴率は17.8%だそうですね。1話目を超える話題っぷりです。
やっぱり見所は、ありんこのような町工場がマンモス級の大企業を相手に、特許という切り札で立ち向かう点ではないでしょうか。裁判所のシーンは心打たれました!
そこで今回も、特許について知らない方なら不思議に思ったかもしれない3つのポイントを勝手に解説します。
photo credit: Justice Gavel via photopin (license)
特許を売るか貸すかで本当に悩むの?
佃製作所が先に出した特許(バルブシステム)を帝国重工が買い取りたいといって提示した額が20億円!ゴミ(意味のない特許)の中から運よくお宝特許が見つかったと思えば、サッサと売ってしまったほうがいい気もします。
特許を持っている会社なら、特許を売るか貸すかで悩むことはよくあります。なぜなら、特許は維持費もバカにならないし、新しい技術が登場して特許のトレンドが過ぎると価値が下がるからです。だから、他社に売るか?貸すか?売るならいくら?貸すならいくら?、っていうか、そもそも買い手や借り手はいるのか?など、模索しています。
佃社長が言っていたように、特許の本質は、会社の技術がライバル会社に真似されないように守ることです。一方、帝国重工のように、新製品を開発するには他社(この場合、佃製作所)の特許を割けては通れない会社もあれば、他社の特許をあえて活かして新製品を開発する会社もあります。
ちなみに、特許を貸した場合の利益(ライセンス収入)は、一般的に製品の売上に対する1~5%と言われています。100万円売り上げたら1~5万円の収入ということです。特許の貢献度にもよるため、もっと多い場合もあれば、少ない場合もあります。
裁判官によって判断は本当に違うの?
第2話の裁判所のシーンでは、大手企業にえこひいきしてそうな疑惑の裁判長が登場しましたね。佃製作所にとってはなんじゃそりゃ!って感じでしょう。でも実は中小企業にも公平な裁判長で、勝訴に等しい和解という結果になりました。
会社の大きさや知名度でえこひいきすることはないとしても、裁判長をはじめ裁判官によって判断が異なることはあるでしょう。なぜなら、裁判官は個々の判断に基づいて判事していいことになっているからです。これを「自由心証主義」といって、しっかり法律で定められているんです(民事訴訟法247条)。
だから裁判官は、裁判をダラダラ続けようとしたり態度が悪かったりする弁護士に対しては悪い印象を持つし、逆に証拠資料を見やすくまとめたり誠意ある態度で望む弁護士に対してはいい印象を持ちます。これを裁判官の「心証形成」といいます。
つまり、裁判官の心証形成が裁判の行方を大きく左右するため、弁護士は一生懸命いい心証を得るようにがんばるわけです。
特許裁判で和解って本当にあるの?
ドラマでは、ナカシマ工業が持っている特許の範囲に、佃製作所の製品(ステラエンジン)が入っており(特許権に抵触していおり)、しかもステラエンジンのせいでナカシマ工業の製品(エルマー2)が売れなかったから90億円損した(たぶん)!という言い分(損害賠償請求)のため、特許裁判がはじまりました。
これに対し、佃製作所も逆訴訟(佃製作所が持っている特許の範囲に、ナカシマ工業の製品(エルマー2)が入っていおり、しかもエルマー2のせいで佃製作所のステラエンジンが売れなかったから70億円損した(たぶん)!という言い分(損害賠償請求))で反撃したわけです。
その結果、裁判長はナカシマ工業の言い分(損害賠償請求の正当性)を認めず、佃製作所の言い分を認めました。そして、これ以上裁判を続けても裁判長の心証は変わらないだろうから、もうやめませんか?時間とお金ももったいないでしょ?という裁判長の提案が「和解勧告」です。このように、双方のメリット・デメリットを考慮して裁判長は和解を提案することがあります。
ちなみに、2011~2013年の3年間では、地方裁判所で特許関係の裁判が行われたのが年平均120.7件で、そのうち裁判内で和解になったのが32.3件(27%)というデータが出ています。
<引用:平成26年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書 P11>
和解内容は非公開のケースもあるため、和解金額が億を超えるケースが何件あったかは定かではありませんが、ドラマのような巨額のケースはレアだと思います。なお、最近では、京セラと韓国系企業の日本法人が和解したニュースが報じられました。
≪まとめ≫
第2話の解説はややコアな内容になりましたが、今回も特許の世界の一部をご紹介しました。『下町ロケット』第3話でも不思議ネタがあったら解説したいと思います。
2015年10月26日
著者 ゆうすけ
関連記事
-
コロプラを訴えた任天堂特許戦略の考察
2018年も新年早々、知的財産関連のビックニュースが飛び込んできました。ご存知、
-
コンサル重視に転換する製造業に期待すること
先日(2016/5/9)、「日立、営業2万人増員 コンサル重視へ転換」という記事が日経新聞に
-
地域の知財活動に役立つサイトまとめ
日本では、特許庁が知的財産(以下、「知財」)の取りまとめをしていますが、特許庁は経済産業省の
-
熊本地震で影響を受けた手続の救済措置
©特許庁※画像にリンクあり[/caption] 2016年4月14日から発生している熊本地方
-
プロダクトデザインを意匠と特許で守る訳
プロダクトデザインの保護といえば意匠、というのは皆さんご存知かと思いますが、特許でも保護でき