アパレル業界でデザイン登録は無意味か?手薄な現状とグローバル化の脅威
最近ホント多いのがブランド品のパクリ問題。このブログでもよく取り上げています。トレードマーク(商標)とデザイン(意匠)がそっくりだと、素人では見分けられません。
そのため、トレードマークを守る活動(商標登録)は活発です。ブランドの命ともいえるからでしょう。一方、デザインを守る活動(意匠登録)は手薄のようです。
そこで、アパレル業界のデザインの登録状況と、将来を見越したグローバル化の脅威について考えてみました。
photo credit: Tonic – Aveda Eco Fashion Week – Day 1 – Feb 23 11 via photopin (license)
2013年のデザイン登録の実績
これは特許庁が公開している統計データ(下表)です。注目したいのは一番右下。2013年の意匠登録件数は28,228件でした(引用:特許行政年次報告書2014年版「第1章 総括統計」更新日 2014年12月26日)。
このうち特許庁の検索データベースで調べたところ(下画像)、アパレルグッズ(主に、被服、服飾、カバン、靴)の意匠登録は1124件。これは年間の意匠登録件数の約3.9%にあたります。ちなみに、事務用品(主に、文房具、包装容器)の意匠登録は3434件で、全体の約12.1%です。
※検索項目のうち、「(現行)日本意匠分類・Dターム」では、アパレルグッズが「B 衣服及び身の回り品」、事務用品が「F 事務用品及び販売用品」に該当するグループをワイルドカード検索しています。
意匠登録では守れる範囲が狭い(デザインがちょっとでもちがうと権利範囲から外れやすい)ため、デッドコピー(完全パクリ品)を取り締まること以外の目的で意匠登録するメリットは少なく、その点でファンション企業は二の足を踏んでいると考えられます。
またアパレルグッズは生産工程がシンプルで比較的簡単に製造できてしまいます。しかも市場が大きく、販売単価も高い。だからパクリ業者としてもパクリがいがあるし、止めろと言われたら撤収も楽勝。これではパクリ対策もモグラたたきです。
そういう観点で考えると、法改正がさけばれているのも理解できます。
当面の目標はファッション企業も使いやすいように意匠法改正を促すこと。(1)審査を省き1~2カ月で意匠登録できるようにする(2)保護期間は1~2年だが登録料も安い分野を設ける――といった見直しが考えられるという。
<引用:2015/1/26 日経新聞「デザイン保護へ権利意識高める 知財戦略フロンティア 」>
他国の市場が奪われるのは脅威
パクリ品対策は消極的な考え方で、企業にとってはコストととらわれがちです。一方、こう考えるのはどうでしょうか?先に誰かに登録されたらその市場が奪われる、と。知的財産権も見方をかえれば脅威になります。
これは各国の意匠登録件数の推移(下グラフ)です。見てわかるとおり、日本やアメリカと比べると、中国国内での意匠登録出願件数がダントツに伸びています。2013年には657,582件が意匠登録を求めて申請されているようです(引用:特許行政年次報告書2014本編掲載図表ダウンロード「1-1-73図 中国における意匠登録出願構造」)。
ちなみに、中国の意匠登録出願件数のうち、アパレルグッズの割合は定かではありませんが、中国を市場と考えるファッション企業にとっては脅威と考えた方がよさそうです。
≪まとめ≫
パクリ対策の観点でいえば、意匠登録が切り札になるとはまだ考えにくいです。だから立体商標や不正競争防止法などの対策も同時進行で検討すべきです。一方、市場の確保という観点でいえば、他国での意匠登録が逆に脅威になりかねません。グローバル化を考えるなら、意匠登録は避けては通れなくなりそうです。
2015年2月7日
著者 ゆうすけ
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