地方のパン屋さんが特許をとったパンの缶詰3つの特徴と新たなビジネスモデル
地方でもパン屋さんの生存競争は激しく、差別化しないと生き残れない時代です。おいしいかおしくない以外にどこで差別化するか?それはパン屋さんにとって悩ましい課題です。
コロンブスの卵かもしれませんが、種明かしをきくと意外と身近なところに差別化のヒントがあったりします。そのヒントをキャッチできるかできないかはパン屋さん次第でしょう。
しかし栃木のパン・アキモトは違いました。パン屋の「パン」とパンパシフィックの「パン」をひっかけ、世界に羽ばたく想いでつけた店名はだてじゃありません。売上5億円に成長したパンビジネスの考え方は、パン屋さんに限らず全ての会社に役立つはずです。社長の秋元義彦氏がカンブリア宮殿に出演し、その秘密を語りました。
そこでパンの製造販売にとって当たり前の課題を再設定し、それを解決する手段で特許をとったパンの缶詰の3つの特徴と新たなビジネスモデルをまとめました。
画像©パン・アキモト
世界各国で特許をとったパンの缶詰の3つの特徴
そもそも特許うんぬんの前に、秋元社長がパン職人として悩んでいたことがありました。それは自分のパンが食べられずに賞味期限切れで捨てられてしまうことです。おいしいおいしくない以前の問題に対して、どのように解決すべきか考えたところ、備蓄用の缶詰からヒントを得ました。そしてパンに応用した工夫点こそ、特許もとれる差別化ポイントとなりました。
ポイント1.パンを詰めた缶ごと焼く
焼く前にパンを缶に入れてしまうと、缶の内側にパンが接するため、食品衛生上問題がありました。そこで缶ごとパンを焼くことで、殺菌効果があることに気づきました。
ポイント2.缶詰の内側とパンとの間に障子を挿入した
衛生上の問題をクリアしても、パンがおいしくなければ意味がありません。しかも備蓄用となると、その分水分をパンに与えないと、乾燥してパサパサしてしまいます。また逆に水分を与えすぎると、焼いたときに発生する蒸気のせいでパンの表面が水っぽくなってしまいます。そこで缶詰の内側とパンとの間に和室用の障子を挿入したところ、その障子が余分な蒸気を吸収するとともに、パンの乾燥を防ぐ効果を得ることができました。
ポイント3.食べた後でも役立つ空き缶
パン・アキモトではアジア各国で被災したエリアに出向いてパンの缶詰をプレゼントしています。しかし缶詰の蓋がプルトップタイプのため、開け口に缶の突起が残って危険でした。そこで金属がもつ弾性力を活かし、蓋を開けたときに突起の先端が上を向く構造にしたところ、空き缶をコップ替わりに再利用できるようにしました。
社会貢献になるビジネスモデル「救缶鳥(きゅうかんちょう)」のカラクリ
3年間保存可能なため、全国の企業や学校など約300団体が備蓄用に購入しています。災害が起こらないのが一番ですが、その分のパンが無駄になり、またしても秋元社長の悩みが増えてしまいました。
そこで考えたのが、販売済みの商品を回収し、回収したパンの缶詰をボランティアで子ども達に寄付することでした。各団体には回収させてもらうかわりに、新品を100円引き(通常800円)で販売するため損はしません。また被災地の子供たちには美味しくパンを食べてもらえます。そしてパン・アキモトにとっては商品購入のリピーターの獲得と社会貢献を同時に行える、画期的なビジネスモデルを考案したのです。
パンの回収率は約64%。つまり10万缶売ったら、6万4000缶もどってくる計算です。これにより継続的な収益を確保できるばかりでなく、継続的にボランティアを行うことができるようになりました。
≪まとめ≫
秋元社長自身、あくまでもビジネスありきだし、収益をあげなければ企業の存在価値はないという考えです。その起業家精神が、パンの購入者、パン・アキモト、被災地の子どもたちの三者にうま味あるビジネスモデルをつくりあげたのではないでしょうか。
画期的なビジネスでも、そのヒントは身近にあって、意外に誰もが見過ごしているかもしれません。常識を非常識と考え、問題意識を持って取り組めば道が開けることを、地方のパン屋さんが教えてくれた気がしました。
2014年2月8日
著者 ゆうすけ
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