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中堅・中小企業に自覚なし?知的財産活動と商品開発体制の因果関係と課題

公開日: : ビジネスモデル, 特許, 特許トレンド

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先日、中堅企業の知的財産活動体制を問題定義した記事がアップされていました。『下町ロケット』のように特許戦略が成功するケースはかなりレアなのが現実です。

モノづくり企業において、知的財産活動は商品開発にどんな恩恵をもたらすのか?知的財産活動を行っている会社と行っていない会社はどう違うのか?

そこで、大手企業と中堅・中小企業の知的財産活動と商品開発体制の比較を図解すると共に、中堅・中小企業の知的財産活動にはどんな課題があるのかを整理してみました。

なお、ここでの「知的財産活動」とは、知的財産権(特許権、意匠権、商標権)の取得、技術ノウハウ管理、情報漏洩対策、他社権利侵害対策(事前調査含む)、共同開発や業務提携における知的財産権活用、社員教育等の総称を示します。  

photo credit: Solar Special Interest Group Meeting (Solar Panels) – University of Salford via photopin (license)

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大手企業では知的財産活動を積極的に推進

多くの大手企業には、知的財産活動を専任する知的財産部が存在します。知的財産部には、弁理士や知的財産管理検定の階級者が適していますが、当然ながら資格よりも知識と実務能力が優遇されています。

ここで、知的財産部と商品開発体制の関係を説明するために、知的財産部を中心に、知的財産部との関係性が高い社内の他部門や社外の関係者をそれぞれ描写しています。

モノづくり企業では一般的に、研究開発部が新商品のアイデアを企画したり、機能やデザインを設計したり、量産できるか検証したり、リリース済みの商品を改良したりしています。

このとき、タイミングは各社によって違いはありますが、新商品の機能、デザイン、製造方法、商品名などについて、特許、意匠登録、商標登録の可能性などについて、知的財産部と連携しています。

研究開発部と調整しつつ、知的財産部は社外の弁理士(または弁護士)と連携して特許などの取得の可能性を検討します。そして、社内の方針が決定した時点で正式依頼し、弁理士は特許の出願書類等の作成を代理で行います。

また、近年では研究開発の企業間連携や産学連携が注目されており、他企業や大学の研究内容を自社の商品開発に活かすのが狙いです。ここでは、知的財産部が会社の窓口となり、提携先の企業や大学と交渉したり許諾の調整を行ったりしています。

その際、知的財産権以外の法律や契約のトラブル対応などについては、法務部と連携して行っています。なお、一般的な法務部では、労務やIR関連の業務も行っており、上述した知的財産業務を専任するのは難しい状況です。

このように、大手企業では事業の成長を見越して商品開発を行うと共に、そこで生まれた知的財産の保護が事業の成長に必要な条件であると考えた体制となっています。

そして、知的財産活動と商品開発体制が充実していると、ライバル企業がマーケットに参入する際には、知的財産権侵害のリスクが伴うため、容易には参入できないという構造となります。。

中堅・中小企業では知的財産活動の専任が不在

一方、中堅~中小のモノづくり企業においては、大手企業のような知的財産部がある会社はほとんどなく、総務、法務、人事、技術など他部門の担当者が兼務しているのが現状です。

近年、企業のグローバル展開は当然のことのようになっているが、地方創生を担うべき各地の中堅企業には大きな悩みが生じている。知財経営の専門部署である知的財産部やその柱となる知財人材が不在のまま、グローバル展開を続けていることだ。

<引用:2015/11/28 【生かせ!知財ビジネス】中堅企業の専門組織形成を急げ by Sankei biz>

知的財産部が無い理由としては、そもそも知的財産部の立ち上げや専任(弁理士など)を配属させる資金的余裕がない、経営者及び幹部が知的財産に関する知見がなく知的財産活動に対する意欲が低いなどがあります。

また、上記の記事にも記載してあるとおり、社内の人材その他リソースを活かして知的財産部の立ち上げ(または専任者の配属)を検討したとしても、自治体や弁理士会主催の無料相談窓口では、そのような相談に対応しきれません。

なぜなら、各無料相談窓口では、主に特許など知的財産権の取得や他人の知的財産権侵害への対応などの知見者が対応するため、企業内の知的財産活動体制の見直しの知見は持ち合わせていないからです。

そして、知的財産部がない中堅・中小企業には、大手企業のように社内の他部門や社外の関係者との連携がうまくいっていないという自覚がないため、課題にも気づいていないことが多いです。

例えば、研究開発部が企画したアイデアに対し、特許などの独占権を取得すべきかノウハウとして社外秘にするかという知財管理の検討が不足がちのため、権利化の機会損失が起っている可能性が高いです。

また、社外の弁理士等との間においては、社内での知財管理が不足しているため、研究開発部からの特許などに関する相談内容をそのまま弁理士に依頼し、それに対するアウトプットの良し悪しも判断できないでしょう。

さらに、企業や大学など商品開発の提携先とは、共同開発や特許権の実施許諾に関する交渉が不足しており、実は不利な契約内容となり、最終的には自社になんの権利もない状態にもなりかねません。

このように、知的財産部がない状態(または知的財産活動がままならない状態)では、他社の知的財産権が商品開発を妨げる原因にもなりかねません。

そして、ライバル企業にとっては、知的財産権侵害のリスクが低くなるため、比較的容易にマーケットに参入できてしまい、安価な劣化品による価格競争に巻き込まれるリスクが増えると考えられます。

外部の専門家を社内に取り込んだ体制づくり

知的財産活動に取り組まなければ商品開発が進まず会社が成長しない、というわけではありません。しかし、成長している会社を見ると、知的財産活動に取り組んでいます。つまり、知的財産活動は、会社が成長するためではなく、成長し続けるための活動と言えます。

また、知的財産活動が商品開発の起爆剤にはなりませんが、権利侵害発覚による研究開発の後戻りや商品の販売停止のリスクを回避したり、適切な情報管理による技術ノウハウを蓄積したりすることで、商品開発を活性化させる糧になるでしょう。

一見すると、知的財産活動の効果は定量的に測りにくいものの、中長期的な視野で知的財産活動を継続し、知的財産権やノウハウを育てることで、売上や利益などに表れてくるはずです。

そこで、特に中堅・中小のモノづくり企業は、外部の弁理士や知的財産業務のキャリアを持つ人材を社内に取り込み、知的財産活動体制を補強することで経営課題の一つと考えられます。

取り込む人材としては、企業内での知的財産業務のみならず、研究開発・生産業務のキャリアも持ち合わせているとベターです。その点については知的財産権の専門家の実態とオープンソース時代での働き方」という過去記事を参考にしてください。

なにも正社員にする必要はなく、例えば、期間限定で特許事務所勤務の弁理士を出向させたり、フリーの弁理士その他専門家と準委任契約したりすれば、一時的なコストだけで済み、人的リスクは低くなります。

≪まとめ≫

大手と中堅・中小のモノづくり企業の知的財産活動と商品開発体制の比較をすることで、会社の成長に必要な知的財産活動の役割や課題を整理しました。中堅・中小企業にとって、知的財産活動に伴う課題の自覚がないと、中長期的にみれば会社経営の大きなリスクになるでしょう。その課題の解決策としては、外部の専門家を期間限定で社内に取り組む体制が目先のカイゼンにつながると考えられます。

2015年11月30日

著者 ゆうすけ 

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