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アップルに学ぶ商品価値を伝える空間の考え方

公開日: : 商標, 商標事例研究, 意匠

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どんなにいい商品だとしても、その価値が伝わらなければ売れません。商品の価値があるかないかは最終的にユーザーが判断することですが、判断するにはその価値を評価する情報が必要です。

商品の価値を評価する情報を目や耳や手から入手したユーザーは、右脳と左脳を使って総合的に価値の評価をするはずです。もちろん、商品の値段や使いやすさなどの条件も含めて。

だだし、伝え方によってはユーザーの評価が大きく変わるでしょう。つまり、伝え方を含めて商品価値の演出方法も知的財産といえます。その点も考慮して、アップルは商品の販売戦略を行っているようです。

photo credit: 13″ Retina MacBook Pro with Retina Display via photopin (license)

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ブランドは人で築かれる

「ジーニアス・バー(天才らのカウンター)」と名付けられたスペースでは、細部まで作り込まれたアップルの商品やソフトウェアを、もっと深く、もっと有効に使うための手段を、高度な知識をもつ専門スタッフ(通称Genius)たちが来店客に手取り足取り教えてくれるのだ。まさにアップル製品のクオリティを最大限に伝えるために考え抜かれた空間なのである。

<引用:「アップル帝国の正体」>

今でさえアップルの商品は飛ぶように売れていますが、1997年に復帰したジョブズは経営状態を立て直すために、商品づくりのみならず、その価値の伝え方を試行錯誤していました。

商品の価値は、商品そのものからだけでは十分に伝わり切らないとジョブズは考えていたのかもしれません。アップルが考える商品の価値をユーザーにとっての価値にする努力が必要だということでしょう。

その手段として、2001年5月19日にヴァージニア州とカリフォルニア州にオープンしたアップルストア初号店から、商品説明の専門員をカウンター越しに配置し、その場を「ジーニアス・バー」と名付けました。

専門員の素質や能力の基準値はあるでしょうが、専門員を教育するマニュアルも充実しているのではないでしょうか。これらも秘密情報としてアップル内で管理されているかもしれません。

そして、「ジーニアス・バー(GENIUS BAR)」というネーミングは、アップルストア初号店オープン前の3月12日にスイスから商標登録出願され、その後日本を含む世界各国で登録されました(日本の登録番号は4651063、以下は登録の概要を示す画像の引用)。

デザイン登録はiPhoneやiPodだけじゃない

このように、商品価値の演出方法にもものすごいこだわりを持っていたジョブズ含むアップル陣営。結果論ですが、その戦略は見事に成功し、小売店としては異例の成長を遂げました。

日本では特に量販店が販路を牛耳る傾向が強く、商品のブランド力を落としたくなかったアップルとしては、どうしても自力で販路を開拓するしかなかったわけです。

そして、「ジーニアス・バー」の貢献を後押ししたのが、アップルストア自体の空間演出ではないでしょうか。建物正面には銀色の壁にアップルマーク、入口は全面ガラス張りで外からでも奥が見渡せます。

さらに、店内にはユーザーの背丈に丁度よさそうな木目調のテーブルが並べられ、その上にはiPhoneやiPodがゆとりをもって配置されています。

このように、商品の価値を伝えるためのオリジナリティあふれる小売店の空間も知的財産の一つと言えます。しかし、このような空間そのものを日本国内にて法的に保護する(第三者のパクリ対策をする)のは、簡単ではありません。

著作権では「建築の著作物」を保護する規定があるものの、実際に著作権を適用するのは困難です(著作物性や依拠性の要件が必要なため)。

また、日本では米国のトレードドレスという空間を商標登録と認める運用はされていません(参考:「アップルストア内装に商標権、その影響は」、以下は登録の概要を示す画像の引用)。

そこで、アップルは「ジーニアス・バー(GENIUS BAR)」のネーミングの商標登録のみならず、そこで使っているテーブルのデザインを意匠登録して保護しています(以下、以下は意匠登録のサムネイル画像の引用)。 

日本にもデザイン家具メーカー(オカムラ、イトーキなど)や輸入家具を販売する会社(イケアなど)も多いことを考えると、微妙なデザインの違いを登録するメリットは十分あるでしょう。

なぜなら、iPhoneやiPodじゃないとしても、アップルのやり方を参考にして類似品を製造販売する会社が出てくるリスクがあるからです。その中には、テーブルや棚も含まれるはずです。ブランドへのこだわりがここからも伺えます。

≪まとめ≫

アップルブランドを確立した大きな要因と考えられる「ジーニアス・バー」のアイデアそのものは知的財産として保護するのは難しいです。一方、「ジーニアス・バー」の専門員用の教育マニュアルは門外不出のノウハウとして管理できるでしょう。また、商品価値を伝える空間を演出するネーミングや器材(テーブルや棚)は商標登録や意匠登録で保護できます。

2015年11月27日

著者 ゆうすけ 

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