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五輪エンブレム騒動に学ぶ見た目のオリジナル性の考え方

公開日: : 商標事例研究, 著作権

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新五輪(オリンピック)エンブレム再募集の応募時期(2015年11月24日~)が迫ってきました。今回は応募者の資格やキャリアの制限がゆるいため、多数の応募が予想されています。

ところで、オリンピックエンブレムに関わらず、この騒動以降、エンブレムやロゴに関係する知的財産権、特に著作権と商標権について、権利取得の重要性や侵害予防の注意喚起がなされています。

しかしながら、知的財産権に対する過剰意識が原因で、新たなデザインの創作活動に歯止めがかかってしまうのは、知財の専門家としても本末転倒だと思っています。

100%パクッたデザインは論外として、自分で考えたのに(または既存ロゴは参考にしただけなのに)、それはパクリだろ!と言われるのはさすがに酷な仕打ちです。

エンブレム騒動自体は落ち着きつつあるようにも感じられますが、いろんな意見や考え方があって、どれも間違ってはいないんだろうけど、今後のデザイン活動の活性化のためにどうすればいいのかは、疑問が残るところです。

そこでここでは、一般のデザイナーさんにもわかるよう、各専門家による旧オリンピックエンブレムとリエージュロゴの見た目上の似ている似ていないの判断プロセスの解説と、知財の知識がなくてもできる見た目のオリジナル性の客観的な見極め方の提案をしたいと思います。

なお、デザインのコンセプトなど見た目以外の要素もオリジナル性を語る上で非常に大切ですが、視覚による印象は優先度の高い要素であり、ここではあくまでもビジュアルに絞った解説のため、「見た目」という言葉を使っています。

photo credit: 2010 Vancouver Winter Olympics Torch via photopin (license) 

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各専門家による判断プロセスの解説

一部が似ていて、そこが目立つから全体的に似ているように見えるけど、実際はどうなんだろう?と疑問に思った方も多いのではないでしょうか。ぼくも同じです。似ている!いや、似ていない!と断言しているデザイナー、弁護士、弁理士などの専門家はいません(っていうか、裁判での判決以外は各専門家の自論です)。

だけど、これこれこういう理由だから似ていない(多数派意見)という結論に行き着くプロセス(ロジック、考え方)は、皆さんほぼ共通していると思います。そのプロセスを簡単にいうと以下の3つのステップで、それを図解するとこんな感じになると思います。

ステップ①:双方の似ている部分を特定する
ステップ②:似ている部分の似度合い及びオリジナル性を検討する
ステップ③:検討した結果を踏まえて全体的に似ている似ていないを判断する

図の左側が旧オリンピックエンブレム、右側がリエージュロゴ、上段が形状のパーツ、下段が色のバリエーション、形状のパーツのオリジナル性の優劣は①が一番高く、色のバリエーションのオリジナル性の優劣は(ア)が一番高い、という味方です。

そこでまずは、似ている部分(リエージュ側の主張)を特定します(赤点線枠内、ステップ①)。

つぎに、この部分の似度合いとオリジナル性を検討したところ、たしかに似ているけど合体文字(ここではTとL)のオリジナル性は低いと考えられています(ステップ②)。

そして、全体の組み合わせ(青点線枠内)のオリジナル性が高いので、双方は全体的に似ていないと考えられています(ステップ③)。

なお、エンブレムの形状のパーツ分け及びそのオリジナル性の優劣には個人差があり、これに限定されないことを補足しておきます。

見た目のオリジナル性の客観的な見極め方

このように、専門家はロゴやエンブレムの似ている似ていないの判断をするとき、公知の既存ロゴのオリジナル性を検討しながら、自作ロゴの一部分にフォーカスしたり、全体からザックリ見たり、また違う一部分にフォーカスしたりします。

一方で、例えば新オリンピックエンブレムの応募者の中には一般の方々も多数いるでしょう。そのような方々に対して何かトラぶったときに運営側が責任転嫁するとは思えませんが、責任負担の確約も応募条件に含まれています(参考:東京2020大会エンブレムデザイン募集のご案内(応募要領)

そのため、応募作品をつくるときに参考にしたロゴがあれば、そのロゴとの違いを説明できるようにしておかないとまずいし、何も参考にしてないとしても、今回のオリンピックエンブレム騒動のような盗作疑惑が起きないとは言い切れません。

そこで、一般のデザイナーさんでもできるロゴのオリジナル性を客観的に見極めるための3つのステップをご提案します。上の図解も参考にしてみてください。

ステップ1:パターン毎に分ける

どこがオリジナルなのか?、オリジナル性は低いのか?高いのか?というのがわからないのは、ロゴを全体的にフワッとしか見ていないからと考えられます。そのため、まずはロゴの形状のパーツや色のバリエーションを分けてみましょう。

ロゴの形状のパーツといっても、単純な形状(円や四角や三角)はそもそもオリジナル性がないので、これらをある程度組み合わせてオリジナル性がありそうなものを最小単位とします。

色のバリエーションは、作品の最終形(例えば、旧オリンピックバージョンと旧パラリンピックバージョン)の他に、モノクロバージョンも分けたほうが無難です。モチーフ(形状)のみ似ている既存ロゴがあるかもしれないからです。

ステップ2:各パターンにオリジナル性の優劣をつける

分けた各パターンを見れば、オリジナル性の低い(ありふれた)デザインもあれば、オリジナル性の高いデザインもあると思います。それらの優劣をつけてならべると、オリジナル性の高低の見える化になるメリットもあります。

上の図解では、シンプルなデザイン(例えば、単純な形状を組み合わせた場合、ありふれた手法で創作した場合)と完成版のデザインが対極にあります。

その他の優劣に厳密な定義はないので、ステップ3の結果を踏まえながら自由に組み替えてもいいと思います。

ステップ3:ネット検索で各パターンの有無を確認する

オリンピックエンブレム騒動の発端は、誰かがネット検索で旧オリンピックエンブレムに似ている既存ロゴを発見し、そのことをネットに流したことと言われています。逆に言えば、ネット検索は似ている既存ロゴを探すツールとしては適していると考えられます。

しかし、画像検索(イメージデータを検索エンジンのサーバにアップロードする方法)は、データ流出のリスクも伴うため、積極的にはおすすめしません(自己責任でお願いします)。

そこで、ステップ1で分けた各パターンの特徴をキーワード化してテキスト検索するのがベターだと思います。検索精度は画像検索より落ちるかもしれませんが、テキスト検索後に画像表示すれば、そのキーワードに関連する画像が表示されるでしょう。

このとき、一部分または全体的に似ている画像があった場合や参考にしたロゴと似ているな~と思う場合は、専門家に相談することをおすすめします。

≪まとめ≫

あらためて整理しますと。。。

まず、専門家は以下のステップで見た目の似ている似ていないの判断を行うのがスタンダードなやり方と考えられます。なお、このときにデザインのコンセプトや創作プロセスの違いも加味してより詳細な検討がなされているようです。

ステップ①:双方の似ている部分を特定する
ステップ②:似ている部分の似度合い及びオリジナル性を検討する
ステップ③:検討した結果を踏まえて全体的に似ている似ていないを判断する

つぎに、専門家のような似ている似ていないの判断ではありませんが、知財の知識がないデザイナーでもできるロゴのオリジナル性の客観的な見極め方のステップを提案しました。

ステップ1:パターン毎に分ける
ステップ2:各パターンにオリジナル性の優劣をつける
ステップ3:ネット検索で各パターンの有無を確認する

その他、ロゴのオリジナル性を主張するときのために、デザインの創作日やネット検索した日などを記録しておくことが大切です。

最後になりますが、新五輪エンブレムを含めて、今後のエンブレムやロゴの創作活動の活性化を願っています。

≪参考記事≫

よくわかる、なぜ「五輪とリエージュのロゴは似てない」と考えるデザイナーが多いのか? (2015/9/7)
疑惑の五輪エンブレムは「著作権侵害」ではない?(2015/9/5)
東京オリンピック エンブレム(ロゴ)著作権・商標権問題のまとめ(2015/8/6 )
デザイン業界の暗部(2015/8/31)
五輪エンブレム騒動の本質とは何か?(2015/11/12)
ネット社会がデザイン界に突きつけた警告(2015/10)
「商標など侵害ないと確約を」の意図は 五輪エンブレム公募 (2015/10/19)

2015年11月12日

著者 ゆうすけ

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  • 弁理士/監査役/ブロガー。中堅企業、中小・ベンチャー企業、スタートアップに適した知的財産活動を提案。 「地域発 ヒット商品のデザイン」でネーミングと商標登録のコラムを掲載。
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