『下町ロケット』第4話から学ぶ、あなたの知らない特許の世界(ネタバレ注意!)
『下町ロケット』第4話、ロケット編完結に向けて盛り上がってきましたね。視聴率こそ第3話を下回る17.1%のようですが、内容としては見応え十分でした。中小企業の技術力、結束力、そしてプライドの大切さを感じました。
そこで今回も、特許の世界について知らない方なら不思議に思ったかもしれないポイントを勝手に解説します。
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帝国重工が本当に欲しい特許の価値とは?
帝国重工は佃製作所のバルブシステムの部品供給を阻止するために、製品性能・生産管理・財務について厳しい基準を設けてきました。
特に財務審査ではむちゃくちゃなカイゼン要求をつきつけた上、裏付けもある黒字見込みにもケチをつける態度に、さすがの佃製作所営業・経理陣も黙っていませんでしたね。
佃製作所の切り札はバルブシステムの特許。帝国重工は佃製作所の許可を得ずにバルブシステムをつくることはできません。佃製作所の特許権を侵害することになるからです。
ここでおさらいしたいのが、帝国重工の弱みです。帝国重工はわずか2週間の差で、佃製作所に特許出願を先越されました。つまり、帝国重工はバルブシステムを開発する技術力を持っているわけです。
しかし、帝国重工のスターダスト計画実施のカウントダウンがはじまっています。もはや佃製作所のバルブシステムの特許を回避する新たなバルブシステムの開発は時間的に不可能です。
つまり、帝国重工の真の弱みは、時間です。もしスターダスト計画実施前に新たなバルブシステムを開発できれば、佃製作所の特許権を侵害することにはならず、佃製作所との交渉すら不要なわけです。
このように、帝国重工にとって、佃製作所の特許の価値はバルブシステム技術開発の時間短縮です。このことから、特許には、技術的な付加価値のみならず、時間的な付加価値もあるといえそうです。
特許があるのに品質検査は必要なの?
検査用のバルブシステムがすり替わっていたときはビックリしましたね。生産管理と財務の審査はクリアしたのに、肝心要の品質検査でミスったら残念すぎます。
それにしても、特許を取っているのになぜバルブシステムの品質検査が必要なんでしょうか。お国(特許庁)のお墨付きに文句あんのか!って感じですよね。
まず前提として、特許は製品(モノ)が実際になくてもとれます。つまり、アイデア(技術的思想)さえあれば、誰でも特許を出せます(審査をクリアできるかどうかは書類の書き方次第です)。
そして、特許の審査をクリアする上で、品質の保証は必要ありません。理論的に製品(モノ)がつくれれればOKで、品質基準をクリアした製品が100回に1個しかつくれないとしても、特許はとれます。
真珠で有名なミキモトの創業者・御木本幸吉が発明した真珠の養殖方法は1916年に特許となりましたが、実際に真珠を取得できた確率は数パーセントだったそうです(参考:御木本幸吉の代表的発明(養殖真珠)(PDF334KB))
このように、特許と製品品質は異なるため、特許をとっても品質基準をクリアした製品を実際につくれるかどうかは別の話です。この点に気をつけないと、“モノにならない特許”になりかねませんので要注意です。
≪まとめ≫
会社経営とモノづくりにおいて、特許がどのように関係するかを整理してみました。今回は、時間的価値や品質保証と特許との関係性が少しでも伝われば嬉しいです。『下町ロケット』第5話でも不思議ネタがあったら解説したいと思います。
2015年11月9日
著者 ゆうすけ
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