実用新案ってどうなの?現状の仕組みと実態と新たな制度設計案
実用新案って、すごく簡単にいうと、特許のライト版なようなものです。特許がとれるほどのモノではないけど、とりあえず権利ほしいな~、真似されないようにしたいな~、というときに申請することが多いです。
簡単に登録できるけど使いにくい仕組み
書式のチャックはあるもの、登録を認めるかどうかの審査はありません。また登録されるまで平均2か月前後。そのため簡単に登録でき、独占権がもらえちゃいます。販売の時期が迫っている商品や、ライフサイクルが短い商品には、お得といえばお得です。
しかしこの独占権を振りかざすときには、あらためて権利の有効性を確認しなければなりません。つまりパクリ業者を見つけても、すぐにやめさせることができず、自分の実用新案が本当に登録するに値するアイデアかどうか審査してもらわないといけないのです。
そんならなんで審査無しで登録させちゃうのよ?という声が聞こてきそうですが、おっしゃるとおりです。本当に必要なタイミングになって、実はあなたの権利、無効なんです!なんて言われたらたまったもんじゃありません。
ほんとど利用されていない実態
もともとは日本の産業の発達を目的として、小さいアイデアも保護しようという狙いがあってつくられた制度です。でも、実は使えない制度なんじゃないか!?と見透かされており、利用頻度もとても低いわけです。
近年、特許は年間約34万件申請されているのに対し、実用新案は1万件を下回っています。これはひとえに死んだ制度であると言っても過言ではありません。なので、実用新案なんてなくしちゃえ!という意見もあります。
そうはいっても、実用新案を使うパターンはちゃんとあります。たとえば特許をとるほど資金がないため、ひとまず実用新案をとるパターン。ある時期までなら特許に切り替えることもできるため、商品が売れてきてパクリ業者が出てきたときに、はじめて文句を言う(権利行使する)かどうか判断します。
また、とにかく登録したという事実がほしいパターン。登録を全くしないということは、奈良公園に鹿せんべいを放り込むようなものです。つまり価値があるアイデア(鹿せんべい)をまったく保護せずに野ざらしにしたため、パクリ業者(鹿)に食い散らかされるリスクを少しでも減らすのが狙いです。
新実用新案は中小・ベンチャー企業・スタートアップの希望の星になれるか!?
このように利用頻度はすごく少ないものの、活用の仕方はそれなりにあるため、活かさないのはもったいないです。もともと小さいアイデアを保護するというのは、日本の産業を支えている中小企業を支援するためでした。それならもっと使いやすい制度にしたらいいんじゃないの?という動きがあるようです。
1.中小・ベンチャー企業の創業及び支援のための新実用新案制度の導入
◎制度の利用に長けていない中小企業・小規模事業者でも、収益に繋がるちょっとしたアイデアについて、容易に保護を受けられるようにするためには、特許法のような進歩性(当業者が容易に発明をすることができないこと)の要件は不要で、①新規性(新しいこと)があって、②付加価値(使い勝手がよくなった、便利になった等)が高ければ、十分とすべきである。そのような①新規で②付加価値の高い小発明をシッカリとした審査の下に、登録できる制度を創設することが必要である。(引用:弁政連フォーラム第248号(平成25年10月15日))
小さいアイデアを保護しようという狙いがあったものの、登録を認める条件が特許とほとんど変わらない、というのが使いにくい制度の理由でした。つまり手っ取り早く実用新案をとったとしても、結局いざ権利行使するときになると、特許と同じレベルの審査がされるわけです。それならはじめから特許で申請したほうがいいんじゃない?という考え方もありました。
そこで特許の条件(進歩性)をやめ、新たに加わりそうなのが「付加価値性」という条件です。使い勝手がよくなった、便利になったと、という主観的な要素が匂うものの、本来的に価値のあるアイデアとはそのようなもので、この部分を保護できれば中小・ベンチャー企業・スタートアップにもメリットがあるのではないでしょうか。具体的にどのような制度になるかまだ不明ですが、今後の動きに目が離せません。
≪まとめ≫
イノベーションは、アイデアが生まれただけではなく、活用されてはじめて起こります。そのアイデアを早い段階で保護し、安心して活用されやすい環境を作ることはとても大切です。ありふれたアイデアだと思っても、実はちょっとした違いに価値があり、大きな利益をもたらすこともあります。一方、何に価値があるかも、使ってみないとわかりません。そういう時代背景において、実用新案の新制度が経済の活性に役立つことを期待したいです。
2013年11月7日
著者 ゆうすけ
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