カルピス「ほっとレモン」 商標登録なぜダメ!?マーケッターも知っ得な裁判例
唐突ですが質問です。「『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』といえばなんという商品名や会社名を想い出しますか?
じつはこの質問に対して、カルピス社の商品「ほっとレモン」は期待外れなデータが出てしまったのです。そのため「ほっとレモン」の商標登録は認められないという判決が出たと報じられました。
そうはいってもよくわからないですよね^^;。ここが商標登録の難しいところであり、実はオモシロいところでもあります。
そこで「ほっとレモン」の商標登録はなぜダメなのか?この結果に対するカルピス社の心中は?という点を検討しました。
・なぜ「ほっとレモン」が商標登録されると困るのか?
そもそも今回の事件は、飲料水大手メーカー2社(S社とK社)が、以下の商標登録は認められないはずでしょ!と申し立てたのが発端です。
一方、S社とK社は、それぞれ自社で以下の商品を販売しています。(右:S社、左:K社)
そのためカルピス社の「ほっとレモン」が商標登録されてしまうと、自分たちの商品が売れなくなってしまうのです。つまりカルピス社から、「ほっとレモン」と同じネーミング(ひらがなとカタカナは同等)を使ってはいけませんよ、と言われてしまうのです。
こうなると、S社もK社も困ってしまいます。なぜなら在庫の回収やラベルの変更をしなければならないからです。
・なぜ「ほっとレモン」は登録が無効なのか?
でもカルピス社の「ほっとレモン」って、なんかオリジナルっぽいですよね。「ほっと」は、気持ちが「ほっと」する意味と、暖かい「ホット」の意味がありそうだし。しかしそれだけでは商標登録は認めないという結論になりました。
飯村裁判長は「品名は温かいレモン風味の飲料を意味し、通常の工夫の範囲を超える商標とはいえない」と指摘。また、調査会社のアンケートでメーカー名を認識していた回答者が0.3%にとどまった点を挙げ「『ほっとする』という意味の日本語とレモンを組み合わせたカルピスの造語として消費者に認識されている」としたカルピス側の主張を退けた(引用:2013年8月28日 産経ニュース「カルピスの「ほっとレモン」商標に認めず 知財高裁。」より)
つまり「ほっとレモン」だけだと、カルピス社の商品かどうかわからないため、そのようなネーミング(商標)の登録を認めてしまって独占させては他の人(S社やK社など)が困るよね!というものです。
一方、カルピス社は以下の商標登録も持っています。
こちらについてはS社もK社も文句は言っていないようです。なぜかというと、この商標は「ほっとレモン」の上に「CALPIS」のロゴが入っているからです。つまりこの場合、「ほっとレモン」ではなく「CALPIS」があるからカルピス社の商品とわかるわけで、「ほっとレモン」の部分は商品の一般名称に過ぎない、と判断したと考えられます。
この商標なら、S社もK社も自社の商品販売に影響はないだろうと考えて、文句は言わなかったと推測できます。
※ちなみにこのケースから、一般名称でも社名やマークを入れれば商標登録できることがわかります。つまり社名やマークを入れてその会社の商品とわかるようにすれば、“ロゴ”として守るメリットがあるのです。
・カルピス社の心中はいかに?
カルピス社としてはこの結果を受け入れざるを得ないものの、納得いかない点もあるかもしれません。なぜなら20年間培ってきた「ほっとレモン」ブランドが崩れかねないからです。
カルピス社は、アサヒフードアンドヘルスケアと提携して「ほっとレモン のど飴」を販売することになりました。飲料水だけでなくて製菓にも進出した矢先の決定だけに厳しい状況かもしれません。
それよりもむしろ商標登録が認められない決定打となったアンケート結果は、「ほっとレモン」のブランド力を物語るものとなってしまいました。以下に、裁判所の判決文の一部を引用します。
「(ア)「『缶やペットボトル入りの温かいレモン飲料』ときくと,なんという商品名やメーカー(会社名)が思い浮かぶか」との質問に対して,「ホットレモン」と回答した者は全体の27.3%であり,「ほっとレモン」と回答した者は全体の20.3%であった。
・・・
b また,「ほっとレモン」と回答した者のうち,メーカー名について回答した者は,次のとおりであった。
カルピス(0.3%)
キリン(0.3%)
サントリー(0.3%)
アサヒ(0.7%)
ポッカ(7.7%)
わからないとの回答(11.0%)」(p16)
これはまさしくマーケティングリサーチそのものでしょう。商標(ネーミング・マーク・ロゴ)の重要性を痛感させられる判例ではないかと想います。ちなみにあけポッカの商品は以下です。
「ほっとレモン」ではなく、「ぽっかぽっかレモン」でした(汗)。ヒトの記憶はあいまいなものです。。。
≪ピッタリナまとめ≫
カルピス社の商標登録戦略は素晴らしかったと想います。しかし今一歩、認知度が及ばなかったのが悔やまれるでしょう。さらに裁判をして争うかどうかはわかりませんが、「ほっとレモン」ブランドを根付かせるマーケティングが今後も必要になると考えられます。
2013年8月29日
著書 ゆうすけ
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