ゆるキャラブームと商標登録の傾向と対策
「ゆるキャラ®」の生みの親であるみうらじゅんさんの著書「「ない仕事」の作り方」を読みました。ニーズ(≒仕事)があるかないかではなく、自らつくるものだとあらためて感じました。
「「ない仕事」の作り方」の具体例として、「ゆるキャラ」の事例はわかりやすかったです。やっぱりネーミングって大事なんですね。みうらじゅんさんの発想法は必見です。
「ゆるキャラ」の商標権者がみうらじゅんさんであることも有名でしょう。ただ、ぼく的には「ゆるキャラ」ブームで広まった「ゆる◯◯」という商標にも注目したいです。
マイナスイメージだった「ゆるい」という言葉が、「ゆるキャラ」ブームによってプラスイメージにかわったため、「ゆる◯◯」という商品名やサービス名も増えたはずです。
そこで調べたところ、「ゆる◯◯」の商標登録の出願件数と「ゆるキャラ」ブームの時系列とに、因果関係がありそうです。商標登録にとってタイミングが重要であることが裏付けられます。
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ゆるキャラブームと商標登録出願の因果関係
前提として、以下の一覧表のうち、「出願件数」は2016年2月23日時点の特許庁の公開データベースJ-Platpat情報、「イベント」は同日時点のウィキペディア情報です。
なお、出願したけど登録できなかった(拒絶査定となった)商標はJ-Platpat情報には含まれていないため、出願件数自体はもっと多いかもしれません。
また、検索してヒットした商標の中には、「ゆるキャラ」のような省略系ネーミングではないもの(以下、「別商標」)も含まれています。
一覧表からでまずわかることは、2002年以前に出願され登録された商標「ゆる〇〇」は、たったの3つしかないことです。しかもこの3つは別商標のため、実質ゼロ件ということになります。
ところが、2002年以降、出願件数は増加しています。イベントとしては、2002年11月23日に『第1回みうらじゅんのゆるキャラショー』が行われています。
2005年や2009年で出願件数が突発的に増加していますが、これもその前年に発生しているイベントとの因果関係が考えられます(2005年:『ゆるキャラ大図鑑』初版、2008年:「ゆるキャラ」が流行語大賞にノミネート)。
そして、2010年以降行われている『ゆるキャラグランプリ』により、「ゆる〇〇」の年間商標登録出願件数はさらに増加しています。2011年の第2回(くまモン1位)以降の増加率は他年よりも高いことがわかります。
ブームと商標登録のタイミング
ここで考えたいのが、ブームと商標登録のタイミングについてです。商標(商品名やサービス名)は、商品の売れ行きを左右する大事なファクターだからです。
どうせ名付けるなら、ウケがいい(売れる)名称にすべきですが、売れる要因には、ブームへの相乗りも含まれます(近々ではオリンピックとか)。
もちろん違法な相乗り(フリーライド)は罰せられます。そのため、法的な観点で合法的な相乗りか否かを考えるべきでしょう。
その点、商標法では、登録商標に似ている商標の使用は、権利侵害のため違法となります。さらに、似ている登録商標がある限り、出願しても登録できません。
つまり、ブームへの相乗りのタイミングと商標法は密接な関係があり、このタイミングを逃すと、フリーライドと勘違いされたり、そもそも相乗りできないリスクが大いにあるわけです。
例えば、2004年4月26日にみうらじゅんさんと扶桑社により共同で「ゆるキャラ」の商標登録が出願され、無事に登録されています。
登録の勝因としては、『ゆるキャラ大図鑑』初版の発売(2004年6月10日)の直前というタイミングで出願している点でしょう。もし発売以降だと、第三者に先に出願されていたかもしれません。
また、「ゆる〇〇」という商品名やサービス名でビジネスを開始したい他の人達にとっては、出願が遅ければ遅いほど、商標登録は難しくなります。なぜなら、似た商品名やサービス名が先に出願されるばかりでなく、みんなが一般名称と勘違いして使い始めるからです。
上述したとおり、「出願件数」には登録できなかった(拒絶査定となった)商標が含まれていないため、登録率は定かではありませんが、同一部分(「ゆる〇〇」など)を含む商標の出願件数が多ければ多いほど、登録率は下がります。
≪まとめ≫
このように、「ゆるキャラ」ブームはその市場のみならず、この市場の恩恵に相乗りする他の市場においても大きな影響を与えていることが、商標登録出願から伺えます。一方、相乗りする側としては、ビジネスチャンスを逃さないためにも、商標法の違法性に十分注意が必要でしょう。
2016年2月24日
著者 ゆうすけ
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