『下町ロケット』第3話から学ぶ、あなたの知らない特許の世界(ネタバレ注意!)
『下町ロケット』第3話が昨日(2015/11/1)放送されました。視聴率は18.6%。右肩上がりのようです。
今回は吉川晃司さん演じる帝国重工の財前部長の過去も明らかになりましたね。父親が経営する会社と佃製作所とを比較して、物思いにふけるシーンが印象的でした。
そこで今回も、特許の世界について知らない方なら不思議に思ったかもしれないポイントを勝手に解説します。
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技術者は夢がある会社にいたいって本当?
第3話の見所の一つに、技術者同士が言い争うシーンがありました。佃製作所の主力製品であるステラエンジンの開発チームにとって、バルブシステムの開発チームはライバルでもあります。担当している製品にも思い入れがあるわけです。
ところで、日本の技術者の多くは、給与以上に研究開発に没頭できる環境を求めるそうです。安田顕さん演じる山崎技術開発部長もやりたいことをやるために大手企業から佃製作所に転職してきました。
そして、特許庁が実施したアンケートでもそのような結果が出ています(以下画像、引用:平成26年3月24日 「職務発明制度に関するアンケート調査結果について 」 by 特許庁)。
「(1)研究開発を行う上で重要と思うこと」として、技術者が最も重視しているのは、日本企業・海外企業どちらも「現実的な問題を解決したいと思う願望」(85%以上)です。一方、日本企業にとって「金銭的な処遇」(71.7%)は、他の項目より低いことがわかります。
もちろん給与がよいに越したことはないでしょうが、技術者がやりがいをもって研究開発できる環境でなければ、ステラエンジンのチームリーダー(真野)のように、他企業からの引き抜きに応じてしまうかもしれません。
また、中小企業が技術者との関係で注意すべきは、職務発明(技術者が職務上考えた発明)に関する取り決めです。
例えば、職務発明は会社のもの(会社が特許を受ける権利を持っている状態)であること、そのかわり技術者にはそれなりの金銭をあげること、などを就業規則に書いておかないと、会社に不満をもった技術者から訴えられるリスクがないとは言えません。
おそらく、佃製作所と技術者(佃社長含む)とは、職務発明の取り決めがあるのではないしょうか。そのため、技術開発部が考えた職務発明(ステラエンジンやバルブシステム)について、特許を受ける権利(特許権を所有する資格)があるのは佃製作所で、そのかわりに技術者にはそれなりの金銭(ボーナスなど)が支払われていると思います。
特許と同じくらいノウハウも重要って本当?
第3話のもう一つの見所は、吉川晃司さん演じる帝国重工の財前部長が佃製作所の技術力を目の当たりにするシーン。バルブシステムの製造ノウハウを見せつけられ、佃製作所の実力を認めた財前部長の男気もかっこよかったです。
ところで、中小企業にとって特許はもちろん大事だし取れるなら取ったほうがいいんですが、それと同じくらいノウハウが大事ってご存知ですか?っていうか、中小企業の多くは大手企業にないノウハウを持っているはずです。
以下は、佃製作所のバルブシステムの開発技術を、ノウハウと特許に分けたイメージ図です。左側がバルブシステムの製造ノウハウ(赤)、右側がバルブシステム構造の特許(青)。帝国重工は全部品を内製(自社で製造した部品)にしたかったため、佃製作所の特許の使用許諾が必要でした。
つまり、帝国重工は佃製作所の特許させ使えればよく、バルブシステムの製造は社内でやろうとしていたわけです。帝国重工には設備投資力もあり、製造装置(マシニングセンタなど)の性能にも自信があったようです。
一方、佃製作所は特許の使用許諾ではなく、バルブシステムを部品として帝国重工に供給したいと申し出ました。なぜなら、佃製作所は特許のみならず、バルブシステムの品質を極限まで高めるための穴あけ、削り、研磨などについて、強烈なノウハウを持っていたからです。
ここで、知的財産のオープン(公開)・クローズ(非公開)戦略についても少しだけご説明します。
特許の内容は一般公開(オープン)されます。そのため、帝国重工は特許の使用許諾さえあれば、バルブシステムの構造を真似できるわけです。そもそも帝国重工もバルブシステムの研究開発をしていたため、製造ノウハウもあるはずです。
しかし、佃製作所の真の強みは、バルブシステムの製造ノウハウです。製造装置の精度を上回る技術者の感覚や勘所は、帝国重工に真似できません。このようなノウハウを非公開(秘密)にすることで、佃製作所は特許と同じくらい貴重な“価値ある技術”をウリにできるわけです。
中小企業としては、特許をとるアイデア(技術的思想)があっても、公開してまで特許をとる価値があるか?、価値があるとしたらどこまで公開すべきか?、非公開のノウハウと組み合わせて特許の価値を高められるか?など、検討すべき点はたくさんあります。
また、会社経営上、ある技術者一人しかしらないノウハウがあるというのは、強みでも反面、弱みにもなります。なぜなら、その技術者が退職したり病欠したりしたら、誰もそのノウハウを再現できなくなるからです。そのため、ノウハウを社内で共有できる仕組みづくりも重要です。
≪まとめ≫
第3話は技術者とノウハウがメインテーマでした。社員が働き続けたいと思える職場環境づくりや会社経営上の強みとなるノウハウを共有できる仕組みづくりは、製造業に限らず大切ではないでしょうか。『下町ロケット』第4話でも不思議ネタがあったら解説したいと思います。
2015年11月2日
著者 ゆうすけ
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