「リニア」の商標登録はなぜ出遅れたか?知財管理と法制度と欲望からの考察
2027年を目処に品川-名古屋間を運行予定のリニアモーターカー。リニアモーター(linear motor)とは、直線運動を行う電気モーターを意味し、これで駆動する鉄道車両がリニアモーターカーです。
運行までまだ10年以上ありますが、以前から注目されているのはご存じのとおり。そのため「リニア」というキーワードの価値はますます高まるはずです。商標的にもSEO的にも。
そう思ってたら、やっぱり出ましたね。「リニア」の商標登録の先取りトラブル。このままでは、JR東海がリニアモーターカー関連のおもちゃやグッズを販売するときに「リニア」と名乗れません。
こういうトラブルは「リニア」に限らず、以前からあるにもかかわらずなくなりません。その理由について、会社の知財管理と商標登録の法制度と人の欲望の観点から考察しました。
photo credit: MLX01-2 (RTRI, Kokubunji, Tokyo, Japan) via photopin (license)
問題の事実認定
2027年のリニア中央新幹線の名古屋開通まであと12年。リニアをあしらった商品も目立ち始めたが、商標を他社におさえられてしまい、おもちゃやグッズなどで「リニア」を商品名に使えない事態が起きている。予想しない、いわば超高速の商標登録に、JR東海の関係者らも困惑顔だ。
<引用:2015/3/23 「「リニア」商標争い、超高速 JR出遅れ、玩具で使えず」by 朝日新聞>
たしかに、おもちゃやグッズ関連の商品(下記画像赤枠内)については、JR東海以外の会社が商標登録していました(会社名はモザイク)。登録されたのは、平成25年(2013)4月5日です。
会社は知財管理してたの?
まず気になるのが、JR東海の知財管理です。 おもちゃやグッズ販売は大切な収益源のはずですが、商標登録リストから抜けちゃってたんでしょうか。鉄道の運行関連のサービス(下記画像赤枠内)については、平成7年(1995)1月31日に登録されています。
事業活動における知財管理のポイントの一つは、リリースと権利化のタイミングです。商標の場合、一般的にはリリースと登録までの日数を逆算して出願します。ちなみに、リリースには、広告宣伝活動も含まれます。
リリース前に商標登録出願すると、その事実が公開されるため、ビジネス戦略がバレるリスクもあります。ちなみに、以前話題になったアップルの「iWatch」はこのリスクを回避する戦略を取りました。
しかも商標登録すると維持費がかかります。登録から10年後に更新費用として5万円くらい。商標登録の内容によってこの費用が倍々ゲームなので、できれば無駄に管理すべきではありません。
でもビジネスの確実性と商標の知名度を考えたら、更新費用でケチるのはマイナスです。今回の場合、おもちゃなどの関連グッズビジネスの収益は予想できたはずなので、その分痛いはずです。
このような事業活動に見合った知財管理を行い適した決断をしないと、今回のトラブルのように先々やっかいになります。そしてこれが知的財産権の威力です。
商標登録の法制度ってどうなの?
某報道番組で明治大学教授の齋藤孝先生も法制度に問題があるのでは?的なことをコメントしていたので、この点についても考察したいと思います。
原則、商標登録は早い者勝ちです。でも、やたら商標登録(独占)を認めるのは産業上良くないため、商品との関係において普通の名称や先に登録された商標と似ている商標などは登録できない仕組みです(商標法3条、4条)。
ここで今回のケースをあてはめると、おもちゃなどの関連グッズとの関係において「リニア」は普通の名称ではありません(おもちゃのこと「リニア」なんて言いませんよね)。
またJRは、鉄道の運行サービスについて「リニア」を商標登録していましたが、おもちゃなどの関連グッズについて「リニア」を商標登録していませんでした。
しかも法制度でカバーできない点は特許庁の運用(審査基準など)でカバーするんですが、登録を希望する商標が本当に使われるかどうかまでは、基本的に確認されません。
このように日本の商標登録が早い者勝ちなのはこういう理由があるからです。ちなみにアメリカは先に使ったもの勝ちです。こういうと、アメリカ式の方がいいんじゃん?と思う人もいるかもしれませんが、先に使われてたら商標登録できないため、これはこれで大変です。
ただし商標登録したとしても、一定期間その商標を使っていなければ、第三者はその登録の取り消しを請求できます。つまり出遅れても商標登録にリトライできるチャンスはゼロではないわけです。
このように、法制度に問題がありそうな感じもしますが、自由競争と弱者救済のバランスはそれなりにとれた内容になっています。
人の欲望は防げない?
そんな知財管理のしくじりと法制度の穴をついた商標登録の先取りは、欲望なのか?合法的な商標登録テクニックなのか?というと、そのどちらともいえるんじゃないでしょうか。
商標登録はたった数文字の名称がときに多大な利益を生むことがあります。「iphone」の商標ライセンスによってアイホン株式会社はかなり得したはずです。このような事例を知れば、欲望が生まれてしまうのも否めません。
一方で、売れ筋を参考にしたり便乗したりするのはビジネスではありえる話です。ゼロから生み出すのは時間もコストもかかるため、ジェネリック家具など権利切れのデザインの活用も注目されています。
このように人の欲望が本来の商標登録のあるべき姿を否定しないよう、ビジネスモラルを持って知的財産を活用すべきでしょう。
≪まとめ≫
商標登録の先取り登録は悪のように見られがちですが、日本の商標法制度においては、使うかわからない商標でも登録は認められるため、合法です。むしろ商標登録は先行投資の側面もあるため、使う保証を求めるのも酷なはずです。だから商標登録に出遅れないよう、会社側も知財管理をちゃんと行う必要があるのではないでしょうか。
2015年3月25日
著者 ゆうすけ
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