倒産寸前だった日本酒「獺祭(だっさい)」の旭酒造が復活した3つのポイント
旭酒造の「獺祭(だっさい)」という日本酒が飛ぶように売れているそうです。カンブリア宮殿に社長の桜井博志氏が出演し、倒産寸前の状態から今に至るまで試行錯誤してきた日々を紹介していました。
「獺祭」は日本酒の基となる米から雑味を取る「磨き」を23%まで行う「磨き二割三部」を実現し、その品質の高さで日本酒10種類すべてにコーシャー認定を獲得しています。そして食の都でもあるパリのシャンゼリゼ通り側の一等地に直営レストランをオープン予定。
今では脚光を浴びていますが、危機的状況をいかにクリアしたか?そのことについて、桜井社長はやるべきことをひたすらやり続けたといいます。そこで旭酒造が復活したポイントをまとめました。
画像©旭酒造株式会社
自分たちでつくる!脱・杜氏(とうじ)
会社の業績が傾き続けたため、杜氏にも見放されました。杜氏といえば、日本酒造りのプロフェッショナルです。そのため職人として存在し、素人にはできない能力があると考えられていました。したがって旭酒造としても杜氏を失ったことは、もはや商品をつくれない状況になってしまったということです。
しかし桜井社長はあきらめず、むしろ開き直って「自分たちでやる」決断をしました。つまり杜氏は雇わず、既存の社員のみで日本酒造りにチャレンジしたのです。30代が中心の若い組織だけど、他に選択肢がないため挑むしかなかったともいえます。
その結果、今では全社員が日本酒造りの技術を身に付けたそうです。例えば、蒸した米の重さや乾燥具合の良し悪し判断できるようになりました。 これにより頭の固い職人がいなくなり、製造現場での意思疎通も実現したといえそうです。
安定した品質!データ分析の徹底
社員だけの日本酒造りが努力と根性だけだったかというと、そうではないようです。杜氏だったら長年の経験で得た勘で日本酒を造りますが、社員には経験も勘もありません。しかも経営状態が悪いため、教育している時間もありません。
そこではじめたのが、発酵途中の酒のデータ分析です。毎日161個のタンクから酒を抽出し、アルコール度数を数値で管理しています。社内に自前の研究施設もつくり、社員で情報共有しています。これによりトラブルが発生しても迅速に対応できるそうです。
桜井社長いわく、データ分析は職人の勘を数値化したもの。職人のような人間の能力は最後の最後に活かせばよく、それ以前はむしろ機械に任せた方が、商品の品質が安定するといいます。つまり「杜氏」という職能のシステム化に成功したわけです。
無稼動期間をカイゼン!1年中いつでも酒造
日本酒は、温度の関係で通常は11月~3月に造ります。その間、酒蔵は稼動していないそうです。その点を旭酒造はカイゼンしたく、1999年に地ビール事業を開始しましたが、3ヶ月で倒産したあげく、1億9000万円も損失しました。
そこで日本酒造りに本腰をいれた旭酒造は、1年中造れる酒蔵をつくりました。工夫したのは、酒蔵の外壁と空調の室外機。温度と湿度を0.1度単位で調整できるようにしたそうです。これによりフレッシュな「獺祭」を 1年中提供し続けることができるようになりました。
カイゼンできたのは酒造りの時期だけでなく、社員の自信にもつながりました。1年中日本酒をつくれる環境にいれることで、キャリアアップにもつながります。それに、その分の売り上げに応じた対価も期待できそうです。それが仕事に対するモチベーションとなっているのではないでしょうか。また地域の若手人材の雇用にも貢献しているといいます。
≪まとめ≫
桜井社長のコメントで響いたのは、「とにかくやれることはすべてやった」ということです。口で言うのは簡単ですが、本当にやりきった人の言葉には重みがあります。そしてやりながら修正する事業方針が勝因だともいっていました。倒産寸前になり、独りで死ぬこともよぎったそうです。取り組む気力さえない状態でもやり続けた想いが「獺祭」に宿っているのではないでしょうか。
2014年1月17日
著者 ゆうすけ
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