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小さなアイデアを人に役立つ価値にする3ステップ – 事例分析「ネガポ辞典」

公開日: : 最終更新日:2014/01/03 ビジネスモデル ,

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ダメだと思いつつ、どうしてもネガティブに考えてしまうことってありませんか?そんなネガティブ思考の自分がいやになったりすることもあるのではないでしょうか。ポジティブ、ポジティブ、ポジティブ。。。う~、考えてもポジティブになれない><。そんな方には、「ネガポ辞典」がオススメです。

「ネガポ辞典」とは、ネガティブワードをポジティブワードに変換してくれるものです。例えば、「八方美人」は「フレンドー、気配り上手」、「暗い」は「落ち着いている、聞き上手」となります。2013年4月には、スマホアプリが20万ダウンロードを達成しました。素晴らしいアイテムだと思います。

そんな「ネガポ辞典」のアイデアはどう生まれたのか?どのようにして商品となったのか?そして守るべき権利はなんなのか?を、とても興味深く思ったのです。

そこで「ネガポ辞典」から学ぶ、アイデアを価値にする3つのステップを研究しました。

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ステップ1 アイデア⇒コンテンツ化


はじめに「ネガポ辞典」の企画が発表されたのは、デジセン2010です。「デジセン」とは、「全国高等学校デザイン選手権大会」の通称です。高校生が社会の問題点を見つけて、解決策を提案する大会です。

そして2010年10月31日に行われたデジセン2010決勝大会で、「ネガポ辞典」は3位に入賞しました。一次審査用の提案パネルは2枚。これがコンテンツ化の源泉となっています。

そこで提案パネルの内容を項目毎に整理しました。

<問題提起>
小学校では1学年に一人、中学校では1クラスに一人、不登校で悩む学生がいる

<統計(数字的裏付け)>
不登校の原因 いじめ:5%、友人関係:20%、本人の問題:43%

<仮説>
自分に自信が持てないことが不登校の原因である。

<解決方法>
自分の良いところに気づき、自信を持たせる。

<提案>
ネガティブワードをポジティブワードに変換するスマホアプリ

<企画の理由>
企画者自身が自分に自信が持てなかった。

<実現性(アプリ機能)>
・変換機能(ネガティブワード→ポジティブワード)
・逆引変換機能(ポジティブワード→ネガティブワード)
・マイカスタム機能(自分の短所を長所として登録できる)
・良いとこリスト(嫌いな人の短所を長所として登録できる)

<効果>
前向きに考えるクセがつき、毎日が楽しくなる。

<ファンの巻き込み>
ホームページでネガティブワードとポジティブワードを募集

photo credit: nhuisman via photopin cc

まず統計に基づき、不登校の原因が自分自身にあるという仮説を立てたのがすごいと思います。この仮説に気づいたのは、おそらく企画者自身が自分に自信を持てなかったからではないでしょうか。自分に自信がない人や不登校生と同じ目線になって考えた企画だから、共感されたのだと思います。

そして自分に自信が持てない原因がネガティブ思考にあり、ネガティブ思考がネガティブワードを生み、ネガティブワードで自信の無さを自覚してしまう、という負のスパイラルを発見した点も素晴らしいです。

なぜ自分に自信が持てないのか?というギモンを深掘りした結果、ネガティブワードが原因であることを発見できたのではないでしょうか。コトバのチカラは良くも悪くも強いのです。

さらにネガティブワードをポジティブワードに逆転した発想があっぱれです。ネガティブワードの反対はポジティブワード。ネガティブワードとポジティブワードは表裏一体。だからネガティブワードをポジティブワードに変換すれば、自信の無さを自覚することなく、負のスパイラルにはまらない。これがこの企画の本質のように思います。

したがってこの本質をコンテンツ化し、変換機能・逆引変換機能・マイカスタム機能・良いとこリストという実現性ある機能に落とし込んだのです。アプリを使った後の効果もわかりやすいですね。ファンを巻き込んで話題性も狙っています。

 

ステップ2.コンテンツ⇒商品化


「ネガポ辞典」の場合、デジセン2010で3位に入賞した実績があります。この時点でマーケットの反応を得られたと考えてよさそうです。したがってその後すばやく商品化に向けて行動しています。

そして2011年3月20日、アプリストア札幌で「ネガポ辞典」の発表会を開催しました。その発表後、App Storeにアプリの登録申請をし、6月16日にApp Storeから「ネガポ辞典」のダウンロードが開始されました。

ダウンロード件数の推移は以下です。

2011年12月31日  42,294
2012年 3月31日  50,582
2012年 5月31日 124,918
2012年12月21日 145,860
2013年 3月 4日 170,188
2013年 4月10日 181,074
2013年 4月16日 218,577

2012年4月24日の段階で、iTunesStoreの無料アプリのランキングで5位、エンターテインメント部門で2位となりました。3月31日のダウンロード数でランキングINが確定したと仮定すると、ダウンロード開始から計算して一日平均約166件です。

2012年のうちは、ランキング上位になるのに十分な件数だったように思えます。一方、2013年では、少なくとも一日平均2000件ダウンロードされないと厳しいとのデータがあります。これもスマホとアプリ件数の増加が影響しているのでしょう(「2013年度版 App Storeの各カテゴリにおける推定ダウンロード数のまとめ」調べ)。

photo credit: FutUndBeidl via photopin cc

そして2012年7月30日には、主婦の友社から書籍の出版が決定しました。アプリのダウンロード数が5月31日時点で12万件を突破したことが切っ掛けになったのでしょうか。その後、9月28日に書籍が発売されました。

書籍増刷の経緯は以下です。

2013年 2月16日 28,000部増刷、トータル60,000部
2013年 3月14日 20,000部増刷、トータル80,000部
2013年 4月10日 10,000部増刷、トータル90,000部
2013年 4月16日 20,000部増刷、トータル11万部

2013年になってからは、アプリと書籍が相乗効果を起こし、ダウンロード件数と増刷部数がグングン伸びています。

メディアでも数多く紹介されています。紹介されたタイミングでダウンロード数や書籍の増刷部数が伸びているようです。主な紹介例は以下です

2012年 5月23日 日本テレビ「PON!」
2012年11月14日 朝日新聞(全国版)
2012年12月18日 TBS「ひるおび!」
2013年 2月 2日 テレビ朝日「SmaStation」
2013年 4月16日 フジテレビ「めざましテレビ」

ファンの巻き込みという観点でいえば、「あなたのネガポ大募集!!!」という企画で、ネガポ2013年3月から毎月1回くらいのペースで行われています。ネガポネタも増えて一石二鳥です。

 

ステップ3 商品⇒知的財産化


アプリのダウンロード数と書籍の販売数の増加により、認知度が十分に高まったといえるでしょう。こうなるとこわいのが、模倣品の散乱です。

「ネガポ辞典」の場合、関連するネガティブワードとポジティブワードとをデータベース化し、検索するワードに対応するワードを表示する機能です。したがって特許になるほど高度なアイデアとはいえないでしょう。

このようなアイデアは守るには、ネーミングを商標登録するのがベストです。ネーミングは、機能やデザインも含めてアイデアそのものをわかりやすく表現したものだからです。

逆に機能やデザインを守れても、ネーミングが守れないと大ダメージです。違うアイデアで「ネガポ辞典」というアプリがあったら、ファンが散らばってしまうからです。そのためシンプルな機能のスマホアプリにとって、ネーミングはとても大切です。

そこで2013年2月18日に、主婦の友社が「ネガポ辞典」の「ネガポ」の部分を商標登録申請しています。なぜ「ネガポ」のみかというと、「ネガポアプリ」や「ネガポセミナー」など、「辞典」以外にも「ネガポ〇〇〇」というネーミングがつかえるからです。また「ネガポ」を商標登録しておけば、「ネガポ〇〇〇」というネーミングの模倣品を取り締まれます。

 

まとめ


コンテンツ化→商品化→知的財産化という3つのステップをへて、「ネガポ辞典」はアイデアを独自の価値に高めました。自分に自信が持てない劣等感からこのアイデアが生まれ、ポジティブワードで自信を取り戻してほしいという想いをカタチにしました。身近な問題を解決したい、この発想が人に役立ち感動させるアイデアを生むのかもしれません。

<参考>

ネガポ辞典

iTunes App Store で見つかる iPhone、iPod touch、iPad 対応 ネガポ辞典

2013年6月16日

著書 ゆうすけ

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